[出典] Genome-wide microhomologies enable precise template-free editing of biologically relevant deletion mutations. Grajcarek J [..] Woltjen K. Nat Commun. 2019-10-24.; 2019-10-25 京都大学iPS細胞研究所ニュース "新たなツール(MHcut法)とゲノム編集技術を用いて患者さんの細胞を使わずにヒトiPS細胞から遺伝子疾患のモデル細胞をつくることに成功"

 二本鎖DNA切断(DSB)修復の修復過程として、NHEJ (非相同末端結合)とテンプレートに依存するHD (相同組換え)に加えて、DSBの切断された末端間の短い相補的配列 (5~25塩基対)に依存するMMEJ (マイクロホモロジー媒介末端結合)が知られている。

 CRISPR-Cas9によるゲノム編集ツールはこれまで主として、NEHJによる遺伝子ノックアウトとHDを介した遺伝子ノックインが広がってきたが、MMEJを介したツールも開発されている。例えば、広島大学と農研機構の研究グループが2017年にPITch法を開発しヒト培養細胞とモデル動物で実証し[1]、2018年には、京都大学iPS細胞研究所 (CiRA)、慶應大学および広島大学の研究グループがMhAX (microhomology assisted excision)を発表し、ヒトiPSCs (hiPSCs)から、正常遺伝子、ヘテロ型変異遺伝子およびホモ型変異遺伝子をそれぞれ帯びた細胞のスカーレスな導出を実証した [2]

 CiRAの研究グループは今回McGill Universityと共同で、ヒトゲノムにおいてMMEJ配列 (μH)を随伴する遺伝子欠損変異を同定し、そうした遺伝子欠損変異が全遺伝子欠損変異の57%をも占めることを見出し、加えて、CRISPR-Cas9で標的可能な部位を同定した (MHcut法)。その上で、MMEJを介したCRISPR-Cas9ゲノム編集により、hiPSCsから精密な疾患モデル細胞を作出した。

μH随伴遺伝子欠損の同定を可能としたMHcut法の概要 (Fig.1 引用下図参照)1
  • 原論文Fig. 1から引用した上図 a に、HDR、NHEJ (図の中では c(lassical)-NHEJと表記)ならびにMMEJのモデル図がまとめられ、上図 b に、ヒトReSeqデータベースからのμHsの検出、PAM配列を手がかりとしたgRNAsの同定、μHsがネストした部位の同定などを経たCRISPR-Cas9 MMEJによる標的可能部位の同定のワークフローがまとめられている。
  • 上図 c にMHcutにより、RefSeqから絞り込んだμHの長さが3 bp以上を伴う遺伝子欠損数 (11,103,351件)と、そこからさらに絞り込んだCRISPR-Cas9の標的可能遺伝子欠損数 (588,540件)、および、レポートの項目がまとめられている。また、上図に挿入したFig. 1-gにあるように、タンパク質コーディング領域の中で、エクソン領域においてμHを伴う欠損を伴う割合が88%に達することも見出した。
μH随伴遺伝子欠損疾患モデル細胞の作出 (Fig. 2引用下図参照)2
  • 次に、hiPSCsまたはヒトES細胞に、CRISPR-Cas9 MMEJを介して、MHcutによって絞り込んだCRISPR-Cas9 MMEJの標的可能な病因変異を誘導することで、疾患モデル細胞の作出が可能なことを実証した (Fig. 2引用上図参照)。
  • 筋ジストロフィーの原因遺伝子としてよく知られているとDYSF遺伝子と、光線過敏症原因遺伝子として知られているALAS2遺伝子 (機能獲得をもたらす変異)とFECH遺伝子 (機能喪失をもたらす変異)に、CRISPR-Cas9 MMEJを介して、病因変異をhiPSCsに誘導し、それぞれ、筋細胞と赤血球に分化させ、患者由来細胞の表現型と機能を精密に再現できることを示した。
 こうして、MHcutによりdbSNPとClinVarを参照しつつRefSeqから導出したMMEJ随伴遺伝子欠損データセットとCRISPR-Cas9 MMEJを組合わせることで、遺伝子欠損変異の半数以上について、疾患関連機能ゲノミクスと薬剤スクリーニングの研究基盤となるモデル細胞の樹立が可能になった。

 MHcutデータセットは、MHcut browserのサイト (https://mhcut-browser.genap.ca/)から公開されている (下図画面キャプチャ参照)MHcut
[MMEJを介したゲノム編集関連crisp_bio記事]
  1. 2017-05-06 TALENまたはCRISPR/Cas9を使ったゲノム編集において、ヒト培養細胞、カエル、カイコへの正確かつ高効率な遺伝子ノックインを実現したPITch法
  2. CRISPRメモ_2018/03/06 [第1項] MhAX (microhomology assisted excision):マイクロホモロジー媒介末端結合 (MMEJ)を介したヒトiPSCsのスカーレス・ゲノム編集
  3. 2019-04-05 
    微細重複症候群の病因変異はテンプレートフリーのMMEJ過程により精密修復が可能
  4. 2018-11-08 機械学習モデルにより一塩基編集技術を磨く (2件):NHEJ/MMEJの道とHDRの道それぞれに
  5. CRISPRメモ_2018/12/29 [第2項] MMEJを介して、CRISPR/Cas9による分裂酵母ゲノムへの効率的ノックインを実現
  6. CRISPRメモ_2018/09/25 (3件) [第3項] MMEJの安定した活性化を介して精密な遺伝子編集を実現