[出典] Co-regulation map of the human proteome enables identification of protein functions. Kustatscher G, Grabowski P [..] Rappsilber J. Nat Biotechnol. 2019-11-04.  (bioRxiv. 2019-03-19 );  'Big data' for life sciences—A human protein co-regulation map reveals new insights into protein functions. University of Exeter News. 2019-11-05

 University of Edinburgh, Technische Universität BerlinならびにUniversity of Exeterの研究グループは今回、摂動に対して変動するタンパク質の応答をSILACにより定量的に解析し共変動するタンパク質をプロテオームワイドで同定可能とする手法ProteomeHD (注: HDはhigh definitionを意味する)を開発し、ヒトのタンパク質10,323種類から294種類の摂動に対して共変動するタンパク質の組み合わせを同定した。

 続いて、自らの実験データにProteomics Identifications Database (PRIDE) のデータを統合した'big data'から、treeClust [1]による機械学習を介して、共変動/共調節・タンパク質間の機能的な関係を同定し、ヒトプロテオームを対象とする共調節マップを構築し、PROTEOMEHD Webサイト から公開した。下図左右はそれぞれトップページと検索結果例の画面キャプチャで、検索結果例では単一の問い合わせ"ペルオキシソーム[2]膜タンパク質 (PEX11β)"がマゼンタ色の点として表示され、PEX11βと共調節されるタンパク質が緑色の点および表に表示されている。
 2019-11-06 TOP PEX11β
 この共調節マップを利用して、物理的な相互作用はしていないタンパク質あるいは共局在していないタンパク質の間の機能的連関を発見することができる。著者らは今回、予想外にも、ペルオキシソーム[2]膜タンパク質PEX11βがミトコンドリア呼吸因子群 (ATP5J2: ATP synthase subunit f mitochondorial enzyme)が共調節の関係にあることを発見した (上図右参照)。

 哺乳類細胞においてペルオキシソームとミトコンドリアが協働して、脂肪酸を分解し細胞エネルギーのバランスを保つことは知られていた。著者らは今回、生細胞の蛍光標識と蛍光顕微鏡観察により、PEX11βによってペルオキシソームの細胞膜が突起を形成しミトコンドリアと相互作用することを確認し、ペルオキシソームから輸送される代謝物がミトコンドリアにおけるATP生産に貢献する機構を示唆するに至った。

 著者らはまた、治療標的にもなり得ることが最近報告されたが[3]、これまでの手法では解析が困難であったマイクロタンパク質/miroprotein (<15 Da; UniProt登録20,408件) の機能を、共調節マップを利用することで、予測可能なことも示した。

 機械学習の過程で評価した結果、タンパク質の共発現解析に基づく機能相関解析は、mRNAの共発現に基づく解析よりも高精度で高感度であり、現時点ではmRNAの共発現データに比べてカバレッジが劣るが、タンパク質発現のデータが蓄積されればされるほど、タンパク質共発現解析による遺伝子機能のアノテーションが加速することになろう。

[参考文献]

[1] treeClust improves protein co-regulation analysis due to robust selectivity for close linear relationships.  Kustatscher G, Grabowski P, Rappsilber J. bioRxiv. 2019-03-20

[2] ライスサイエンス新着論文レビュー「ペルオキシソームはミトコンドリアに由来する前駆小胞と小胞体に由来する前駆小胞とのハイブリッドとして新たに形成される」杉浦 歩 (カナダMcGill大学Montreal Neurological Institute). © 2017 杉浦 歩 Licensed under CC 表示 2.1 日本
 ペルオキシソームは細胞における代謝において中心的なオルガネラのひとつであり,その代謝経路の多くをミトコンドリアと共有する.カナダMcGill大学Montreal Neurological Instituteの杉浦 歩らは、Zellweger症候群の患者に由来するペルオキシソームを欠損した線維芽細胞を用いてペルオキシソームのde novo合成の過程を解析した.顕微鏡によりペルオキシソームの前駆小胞はミトコンドリアの表面において形成されて細胞質に放出されることが観察され,この過程は小胞体に由来するペルオキシソームの前駆小胞を必要とした.この研究により,ペルオキシソームはミトコンドリアに由来する前駆小胞と小胞体に由来する前駆小胞のハイブリッドとして新たに形成されることが示され,哺乳類細胞におけるペルオキシソームのde novo合成について新規のモデルが提唱された (下図参照).ペルオキシソーム
[3] Regulation of the ER stress response by a mitochondrial microprotein. Chu Q [..] Manor U, Saghatelian A. Nat Commun. 2019-10-25
 ソーク研究所のグループが、54個のアミノ酸から成るマイクロタンパク質PIGBOSがUPRを調節することを同定した。PIGBOSはミトコンドリア外膜に局在し、ER-ミトコンドリアが接触する部位で、ERタンパク質のCLCC1と相互作用し、PIGBOSの欠損はUPRを高め細胞死を亢進する。

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