[出典] Dose-dependent activation of gene expression is achieved using CRISPR and small molecules that recruit endogenous chromatin machinery. Chiarella  AM [..] Jin J, Hathaway NA. Nat Biotechnol. 2019-11-11.

 CRISPR-Casシステムに基づく遺伝子発現の抑制と活性化が、dCas9に転写抑制因子または転写活性化因子を結合するCRISPRiとCRISPRaによって実現されていたが、UNC Eshelman School of Pharmacy, Icahn School of Medicine at Mount SinaiならびにNCI/NIHの研究グループは今回、外来の転写調節因子に依らずに遺伝子発現の活性化レベルの調節が可能なことを示した。
  • 研究グループは先行研究 [*]で、FK506結合タンパク質 (FKBP: FK506-binding protein)-Gal4融合転写因子と、FKBPと結合するFK506誘導体にヒストン脱アセチル化酵素 (HDAC)をリクルートするHDAC阻害剤を融合した二官能性リガンド(bifunctional ligand)とを、組み合わせることで、標的遺伝子の発現を抑制するシステムを実現し、このbifunctional ligandをchemical epigenetic modifier (CEM)と称した (先行論文Figure 1 参照)
  • 研究グループは今回は、FK506にヒストンアセチルトランスフェラーゼ (HAT)をリクルートするHATのブロモドメイン阻害剤を融合したCEM (CEM-activating: CEMa)を設計・作出し、CRISPRi/aの部品として利用されてきたdCas9にFKBPを融合した因子 (dCas9-FKBP)と組み合わせることで(Nature Biotechnologyのツイート引用下図参照)、標的遺伝子の発現活性化を実現した。
  • 上図にある3種類のCEMa (CEM87, CEM88またはCEM114)とCas9-FKBPを組み合わせて、TREG3プロモータの下流にGFPレポータ遺伝子を帯びたHEK293細胞において、dCas9-FKBP-CEMaが、標的遺伝子の発現を顕著に亢進すること確認した。ここで、CEM87、CEM88またはCEM114は、HATのBRD4、BRPF1またはCBP/p300のそれぞれの阻害剤から誘導した。
  • CEM87とCEM114について、濃度を0 - 1,600 nMの範囲で変えていったところ、それぞれ~400 nMと~800 nMに至るまで、濃度とともに遺伝子発現の活性化の程度が向上していくことを見出した (上図 g と h 参照)。また、可逆的な活性化が可能なこと、および、CEMaの特異性が高いことも、見出した。
  • 200 nMのCEM87によって、他の遺伝子よりも発現が弱いIL-1受容体アンタゴニス (IL1RN)遺伝子の発現のコントロールの92.5倍まで亢進し、OCT4遺伝子の発現亢進は4.9内に止まり、ヒトゲノム上で他の遺伝子よりも高発現しているMYC1遺伝子の発現にコントロールとの有意差が無いことを、見出した。
  • さらに、MYOD1を発現し、中央部にBRD4が存在しているスーパーエンハンサー(SE)を帯びている横紋筋肉腫細胞株 (RH4)に、SEを標的とするdCas9-FKBPを導入し、CEM87を加えたところ、MYOD1の発現が有意に向上し、BRD4とSEとの結合が強化されたことが示唆された。
  • 200 nM CEM87がシングルセルでのRNA発現とタンパク質発現に与える影響をCXCR4遺伝子をモデルとしてHEK293細胞において検証し、それぞれ、12.2倍と5.6倍の活性化がもたらされることを同定し、HCT116細胞においても200 nm CEM87を介したCXCR4遺伝子発現活性化を確認した。また、HCT116細胞におけるCXCR4遺伝子の200 nM CEM87による発現活性化の活性化が、CRISPRaの一種であるdCas9-p300と同レベルであり、dCas9-VPRには劣ることも見出した。
[*] 先行研究論文
  • Targeted gene repression using novel bifunctional molecules to harness endogenous histone deacetylation activity. Butler KV, Chiarella AM, Jin J, Hathaway NA. ACS Synth Biol. 2017-11-07 (PMC5775041)
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