[出典] The clinical KRAS(G12C) inhibitor AMG 510 drives anti-tumour immunity. Canon J, Rex K, Saiki AY [..] Lipford JR. Nature. 2019-10-30; [構造情報] 6OIM X-ray co-crystal structure of KRAS(G12C/C51S/C80L/C118S) bound to GDP and AMG 510 at a resolution of 1.65 Å; [NEWS AND VIEWS] Small molecule combats cancer-causing KRAS protein at last. Herbst RS, Schlessinger J. Nature. 2019-11-08; [crisp_bio注] 2019-11-15 15:10 マウスでの実験結果など追記

 KRAS変異は多くの癌に見られる。KRASはGDPが結合している状態では不活性であり、GDPに替えてGTPが結合するとRafをはじめとする下流のシグナル伝達を活性化し、GTPの分解と共に、不活性な状態に戻っていく。G12Cのような変異を帯びたKRAS [以下、KRAS (G12C)]は、下流シグナル伝達を恒常的に活性化するようになる。この、がん原遺伝子として機能するようになる過程が、KRAS変異を帯びた癌の治療標的となる。

 
Amgenを主とする研究グループは今回、「AMG 510はKRAS (G12C)を帯びた腫瘍細胞において、GDPからGTPへの交換をこれまでになく強力に阻害し、加えて、KRAS下流のエフェクターERKのリン酸化も強力に阻害し、単独療法とともに併用療法にも有望」とする論文を、Nature誌に発表した。

経緯
  • Amgenは、GDPが結合した不活性なKRAS(G12C)タンパク質のヒスチジン95 (H95)に'cryptic groove' [1] を発見し、低分子スクリーニングと結晶構造に基づいた設計を継続し、一連のH95グルーブ結合タンパク質の最適化を経て最も有望であった低分子、AMG 510、について、2018年に第1/2相試験 [2] を開始した。
  • その後、2019年6月3日にアメリカ臨床腫瘍学会 (2019 ASCO annual meeting, シカゴ)にて [3]、続いて、2019年9月8日に世界肺がん学会議 (2019 World Conference on Lung Cancer (WCLC), バルセロナ)にて [4]、KRAS(G12C)変異を帯びた主として非小細胞肺癌 (NSCLC)患者を対象とした第1相試験から、治験初期段階でのAMG 510の安全性と効用を発表してきた。WCLCでは、FDAからKRAS(G12C)変異を帯びた転移性NSCLC患者を対象とするファストトラック指定を受けたとも発表された。
  • 次いで、2019年10月30日にNature誌から"KRAS(G12C)阻害治験薬AMG 510は抗腫瘍免疫をドライブする"と題して、安全性ならびに単独療法と併用療養の効用、およびその構造基盤を報告した [5]
Nature論文の概要 - AMG 510の特徴
  • KRAS変異の中でKRAS (G12C)は、肺腺癌の13%、大腸癌の3%、その他の固形腫瘍の2%に見られる。この変異のシステインは、GDPが結合した不活性型のKRASに存在するポケット (P2)に隣接する。このため、このシステインに共有結合する低分子が探索されARS-1620 [6] が同定されるに至ったが、前臨床試験に止まっており、AMG 510は、KRASに特有な変異を標的とするKRAS阻害剤として初めて、ヒトを対象とする臨床試験に到達した。
  • AMG 510とARS-1620の構造はほぼ重なるが (Nature論文 Extended Data Fig. 1 参照)ヌクレオチド交換アッセイでアッセイでAMG 510はARS-1620の~10倍の活性を示し、これは、下図のそれぞれが結合したKRAS (G12C)の結晶構造の比較に見られるように、低分子とH95グルーブの位置関係/相互作用の差異に由来する。KRAS (G12C)

追記 -1 (2019-11-15 16:00:主として、NEWS & VIEWSに準拠) 
  • マウスモデル (患者由来KRAS(G12C)細胞移植マウス)での実験結果(1): 体重1kg当たりAMG 510 100mg/kg投与により腫瘍が一旦縮減するが再増殖した;用量200 mg/kgで10匹のうち8匹で観察期間中腫瘍縮減が継続した;システインへのAMG 510結合により細胞死が誘導されることから、システインを帯びたKRAS(G12C)以外のタンパク質への結合の査定が必要
  • マウスモデルでの実験結果(2): 200 mg/kgは免疫システムが機能しているマウスでのみ奏功し、T細胞を欠損しているマウスには奏功しないかった;しかし、抗PD-1抗体を併用すると用量100 mg/kgで10匹のうち9匹で腫瘍が消失した (complete tumour regression)。
  • マウスモデルでの実験結果(3): AMG 510は、腫瘍におけるケモカインの発現ならびにT細胞と樹状細胞の浸潤を亢進した;併用療法で腫瘍が消失したマウスに移植したKRAS(G12C)細胞は、腫瘍細胞は増殖せず、併用療法が、KRAS (G12C)腫瘍細胞に対する長期間のT細胞応答を確立することが示唆された。
  • マウスモデルでの実験結果(4): AMG 510は、標準的な化学療法またはKRAS下流に位置のMEKを阻害する低分子との併用によっても、効用を強めた。
  • KRAS (G12C)を帯びたNSCLC患者4名にAMG 510を処方し、2名で腫瘍増殖が止まり、他の2名にそれぞれ34%と67%の腫瘍縮減が見られた。
  • NEWS & VIEWSでは関心事として、AMG 510がKRAS (G12C)の第一選択治療薬足り得るか?、KRAS変異癌から転移した脳腫瘍にも有効か?、最適な用量と毒性 [*]は?、MRTX849などの他のKRAS (G12C)阻害剤との比較、をあげた上で、本研究を高く評価した  ([*] WCLCでの報告では、34名のコホートで7名にグレード1-3の副作用が見られ、27名について投与を継続中とされていた]
追記 - 2 (2020-01-22に関連crisp_bio記事へのリンクを追加)
参考文献
  1. Cryptic binding sites on proteins: definition, detection, and druggability. Vajda S, Beglov D, Wakefield AE, Egbert M, Whitty A. Curr Opin Chem Biol. 2018 Jun;44:1-8. Online 2018-05-23
  2. NCT03600883: A Phase 1/2, Study Evaluating the Safety, Tolerability, PK, and Efficacy of AMG 510 in Subjects With Solid Tumors With a Specific KRAS Mutation.
  3. [NEWS RELEASE] Amgen Announces First Clinical Data Evaluating Novel Investigational KRASG12C Inhibitor AMG 510 At ASCO 2019. Amgen 2019-06-03.
  4. [NEWS RELEASE] Amgen Announces New Clinical Data Evaluating Novel Investigational KRAS(G12C) Inhibitor In Larger Patient Group At WCLC 2019. Amgen. 2019-09-08
  5. [NEWS RELEASE] The Discovery Of Amgen's Novel Investigational KRAS(G12C) Inhibitor AMG 510 Published In Nature. AMGEN/Multiview 2019-10-30
  6. Targeting KRAS Mutant Cancers with a Covalent G12C-Specific Inhibitor. Janes MR, Zhang J, Li LS [..] Liu Y. Cell. 2018-01-25
  7. The KRASG12C Inhibitor, MRTX849, Provides Insight Toward Therapeutic Susceptibility of KRAS Mutant Cancers in Mouse Models and Patients. Cancer Discovery. 2019-10-28