[出典] Deep profiling reveals substantial heterogeneity of integration outcomes in CRISPR knock-in experiments. Canaj H, Hussmann JA [..] Weissman JS, Leonetti MD. bioRxiv. 2019-11-13.
 Chan Zuckerberg BiohubとUCSFの研究グループは今回、SMRTロングリード・アンプリコン・シーケンシングと新たに開発したデータ処理パイプライン (knock-knock)により、エレクトロポレーションしたCRISPR/Cas9-sgRNAのRNPが誘導するDSBから、同じくエレクトロポレーションしたドナーに基づくHDRを介したオープンリーディングフレーム (ORFs)へのノックインの結果を解析した。
 その結果、ノックインの結果を想定通りのノックインと想定外のノックイン (mis-integration patterns)4種類の計5種類に分類し、想定通りのHDRが実現する確率が、実験条件によって、10~90%の範囲で変動することを示した (Supplementary Figure 2参照)

knock-knock
  • SMRTからのリードと、標的ゲノムとドナーをはじめとして実験に含まれるあらゆる配列とのアライメントに基づいて、HDRの結果を分類する。
  • プログラム入手先: https://github.com/jeffhussmann/knock-knock
試行した実験条件
  • 細胞と標的:HEK293T、ヒトiPSCsおよびマウスmESC、それぞれ200,000個;2種類の遺伝子座
  • ドナーの長さ:GFP11 (90 ntと相同アーム55 nt)とsfGFP(~700 ntと相同アーム~150-600 nt)
  • ドナーのタイプ:プラスミド、dsDNA/PCRおよびssODN; 予備実験にてプラスミドバックボーンの組み込みが顕著であったことから、dsDNAまたはssODNをドナーとした結果について解析
  • 実験条件依存の例:iPSCの場合、期待通りのノックインの効率が、GFP11-ssODNのドナーでは75%を越した一方で、sfGFP/dsDNAの場合は20%に及ばなかった。また、HEK293T細胞ではGFP11-ssODNのドナーによる高いノックイン効率は見られなかった
ノックインパターン (分類名と概要)
  • HDR: 期待したノックイン
  • blunt: 相同アームの重複
  • concatemer: ドナー配列の多重な挿入
  • incomplete: ドナー左右の相同アームのどちらか一方のみ設計通りの結合 (ただし、"blunt"を除く)
  • complex: その他のパターン
'mis-integration patterns'が発生する機構など
  • 研究グループは、DSBの左右の切断部位が、互いに独立な機構で修復され、想定外のノックイン結果は主として、マイクロホモロジーを介したドナー配列のmis-integrationに因るとした。
  • NHEJを介したオフターゲット部位へのノックインの確率も細胞型に依存した:GFP11の場合のオフターゲット率は、HEK293T細胞とiPSCでそれぞれ~10%と~1.5%;オフターゲット・ノックインは、5'末端修飾によって低減。
  • 今後、ドナーを介した精密なノックインの最適化を、内在するDSB修復過程の制御や実験条件の調整により、実現していくことが期待される。
参考:HDRの予測可能性に関するcrisp_bio記事