[出典] Harnessing type I CRISPR–Cas systems for genome engineering in human cells. Cameron C [..] Sternberg SH. Nat Biotechnol. 2019-11-18

 タイプ I CRISPR-Casシステムは、バクテリアとアーケアにみられるCRISPR-Casシステムの中で最も豊富であるが、タイプ II CRISPR-Casシステムのようにはゲノム編集ツールとして広がって来なかった。
 Caribou Biosciencesを主とする研究グループ (以下、CBグループ)は今回、Duke Universityを主とする研究グループ (以下、DUグループ)がタイプ I CRISPR-CasのCascadeによりヒト細胞における遺伝子の転写活性化と抑制を実現 [*]したのに続いて、EcoCascadeおよびそのホモログによりヒト細胞標的遺伝子座へのindels導入および領域削除が可能なことを示した。
 DUグループの手法は、マルチサブユニットの複合体であるCascadeからヘリカーゼ活性とヌクレアーゼ活性を備えたcas3の発現を排除した点が特徴であったが、CBグループの手法は、E. coli 由来Cascadeに二量体化によって非選択的活性を発揮するFokIヌクレアーゼを結合した'Fok I-EcoCascade'のペアを利用する点が特徴である (原論文 Fig. 1参照 )。
  • FokIは、EcoCascadeの結晶構造を参考に、サブユニットCas8への結合を選択し、Cacadeを構成する他のヒトにコドン最適化したサブユニットとともにポロシストロニックな発現プラスミドとしてヌクレオフェクションすることで細胞内でのCascadeの再構成を実現した。ガイドRNA (gRNA)は第2のプラスミドにて細胞へとヌクレオフェクションした。
  • 5′-AWG-3′ PAMsを帯びた96種類の遺伝子座に対して、Fok1-Cascadeペアが結合するサイトの間隔 (interspacer)を14-60-bpに設定した予備実験の結果、FokIとCas8のリンカーの最適長17 aaを同定した。
  • EcoCascadeに加えて、他の11種類のタイプI-E Cascadeの活性も評価し、EcoCascadeに加えて、Pseudomonas sp. S-6-2 (PseCascade)およびStreptococcus thermophilus (SthCascade) の3種類について実験を進めた。
  • PseCascadeについて、30-33 bpのinterspacerのウインドウにおいて~40-50%のindels誘導率を示し、他も同様な傾向を示すことを同定した。検証は、HEK293細胞、HeLa細胞およびU2OS細胞において行った。
  • また、PseCascadeとCascade-Cas3をペアにすることで、HEK293細胞において~200 kbまでの領域の欠失を実現した。
  • 一対のgRNAsと標的DNAとの間にミスマッチが存在すると、FokI-PseCascadeによるゲノム編集が阻害された。また、PAMがinterspacerより外側に位置している場合もゲノム編集が阻害された。
[*] 参考crisp_bio記事 2019-09-25 ヒト細胞における遺伝子の転写活性化と抑制を、E. coli由来Cascadeで実現

Nature Biotechnology ツイートのリツイートを以下に引用