[出典] Multi-Layer Controls of Cas9 Activity Coupled With ATP Synthase Over-Expression for Efficient Genome Editing in Streptomyces. Wang K, Zhao QW, Liu YF [..] Li YQ, Mao XM. Front Bioeng Biotechnol. 2019-11-01
 CRISPRシステムのエフェクタをコードするcas9遺伝子の恒常的な過剰発現は微生物種の多くにとって致死性であり、形質転換体が著しく減少する結果に至る。浙江大学を主とする中・英の研究グループは今回、細胞内でのCas9の活性を細胞内でcas9の転写からの3つのレベルで調節し、加えて、HDRを促進する手段を講じて、細胞生存性と変異体作出効率の両立を図った。

 Streptomyces coelicolorをモデルとして、cas9の活性を、転写レベル翻訳レベル (mRNA発現レベル)およびタンパク質発現レベルの3レベルで制御し、加えて、ATP合成酵素のβサブユニットAtpDの過剰発現によりHDRを促進した (FIGURE. 1引用下図参照)。FIGURE 1
  • 転写レベル:恒常的なプロモーターaac(3)IVを、誘導可能なプロモータtipApに変更
  • 翻訳レベル:tipApの直下に、誘導因子 (theophylline)が存在しない場合は下流の遺伝子からのタンパク質の発現を極めて低レベルに抑制し、誘導因子存在下で、数百倍のレベルのタンパク質発現をもたらすリボスイッチを導入
  • タンパク質レベル:cas9をN713-pMagとnMag-C714に分割し、青色光照射により細胞内でCas9を形成  [*](上図の A 内の上から4段目と B のTRM) (* 関連crisp_bio記事: 2017-09-17 dCas9をベースとした光刺激転写活性化システム第2世代へ:神経細胞の分化誘導も可能に)
  • HDR亢進:ATP依存DNA修復システムであるHDRを、S. coelocolor由来ATP合成酵素のβサブユニットAtpDを、強力な恒常的プロモーターermEpにより過剰発現することで、亢進 (上図の A 内の最下段と C のTRMA)
actII-ORF4のHDRを介した削除実験
  • 形質転換効率:2,1680の母集団に対して、Cas9が活性でない状態では形質転換体が21,000を超えたが、cas9aac(3)IVまたはtipApで発現させた場合はそれぞれ僅かに24と30とに止まったが、tipApにそれぞれリボスイッチ、スプリットCasの利用を加えることで、それぞれ、530と5,000へと形質転換効率が向上し、さらに、前項上図にあるリボスイッチとスプリットCasを共に加えTRMAにより、6,400にまで向上した (FIGURE 2 引用下図 A, B 参照)。FIGURE 2
  • 削除効率:aac(3)IVまたはtipApでcas9を発現させた場合は、形質転換体は極めて少数であったが、actII-ORF4の削除効率は~90%に達した。一方で、TRMAはactII-ORF4をほとんど削除しなかった (上図 C, D参照)。
HDR亢進の効果
  • 先行研究で、リボスイッチとスプリットCas9において、非誘導条件下でもCas9の活性がみられる (leakage)とされていたことから、研究グループはHDR効率向上を模索し、RecAの過剰発現は形質転換効率を低下させるが、AtpDの過剰発現が形質転換の効率を損なうことなく (6,400-7,200形質転換体) ゲノム編集効率~10%を実現することを見出した。
  • したがって、TRMAにより700 (~7,000形質変換体の~10%)を超える変異体が得られることになり、aac(3)IVによりcas9を発現させた場合に得られる変異体の数(24形質転換体 x 遺伝子編集効率 90%)を大きく上回る結果が得られた。
  • redD遺伝子についても、actII-ORF4遺伝子と同様の結果が得られた。