2020-07-23更新: 査読付きジャーナル (J Am Chem Soc 2020-07-13) 掲載を追記
[出典] TUTase mediated site-directed access to clickable chromatin employing CRISPR-dCas9. George JT [..]  Maiti S, Chakraborty D, Srivatsan SG. bioRxiv. 2019-11-20. > J Am Chem Soc 2020-07-13

 CRISPR-Casシステムによるゲノム編集技術開発が進む中で、dCas9-sgRNAを介して、遺伝子転写の活性化と抑制 (CRISPRa/i)、塩基編集 (CBE/ABE)、クロマチンのプルダウン [1-2]、および遺伝子可視化が実現した。これらのツールは、主として、dCas9に機能性タンパク質 eGFP、APOBEC、VP64など)やエピトープタグ (Flag、SunTagなど)を融合することや、sgRNAにRNA結合タンパク質またはアプタマーを結合することで、実現されてきた。

 低分子による標的遺伝子座の標識もこれまで試みられてきたが [例 3-4]、Indian Institute of Science Education and ResearchとInstitute of Genomics and Integrative Biology (Pune)の研究グループは今回、クリックケミストリーを利用することで、Cas9/dCas9の活性や細胞への影響を最小限に止めることを期待できる生体直交型 (bioorthogonal)の「標的遺伝子座の低分子のプローブやエフェクターによる標識」法を開発し、sgRNA-Click (sg-CLK)と称した。
  • このsg-CLKでは、in vitro転写したsgRNAsの3'末端に、TUTase (Terminal Uridylyl Transferase)を介して、アジドでラベルしたUTP (ウリジン三リン酸)アナログ (AMUTP)を付加し、sgRNAsがdCas9と複合体を形成する前に限らずに複合体形成後にも、アジドとアルキンのクリック反応を利用して、アルキンでラベルした機能性タグによる標的遺伝子座の標識が実現する。
  • 研究グループは予備実験を経て、TUTaseとしてcaffeine-induced death suppressor 1 として知られているSchizosaccharomyces pombe由来のCID1 (SpCID1)を選択した。
  • Cas9とアジド化したsgRNAはRNP複合体を形成することが可能であり、また、Cas9と野生型のsgRNAのRNP複合体と同等のdsDNA切断活性を示したが、Cas9とビオチンやCysをクリックした後のsgRNAとのRNP複合体形成率は著しく低下した。
  • マウスES細胞をモデルとして、三者複合体 (標的DNAに結合後のdCas9-アジド化sgRNA)に対して、アルキンを介してビオチンをクリックすることで、プルダウンを経て、テロメア領域のエンリッチメントを実現した。
  • このクリック反応において、歪み促進型アジド-アルキン付加環化 (Strain-promoted alkyne-azide cycloadditions (SPAAC))よりも銅触媒を介したアジドとアルキンとの環化付加反応(Cu-Catalyzed Azide Alkyne Cycloaddition: CuAAC)の方が効率が良く、さらに、融合タンパク質やMS2アプラマーを利用するこれまでのテロメア・キャプチャー法よりも効率が良いことを、見出した。
[参考論文・crisp_bio記事]
  1. dCas9-targeted locus-specific protein isolation method identifies histone gene regulators. Tsui C [..] Tjian R. Proc Natl Acad Sci U S A. 2018-03-20 :化学架橋した細胞から物理的に生成したクロマチン小断片の混合物に、3xFLAG-sgRNAのRNPを加え、 アンチ-FLAG抗体を介して、クロマチンのエンリッチメントし、プロテアーゼKまたはヌクレアーゼで処理し、エンリッチされたDNAまたはタンパク質を同定していくCLASP” (Cas9 locus-associated proteome)法を開発し、ヒト細胞においてテロメア配列に結合するタンパク質およびショウジョウバエにおいて必須ヒストン遺伝子座を調節する一連の因子を同定 (原論文 Fig . 1参照)
  2. CRISPRメモ_2019/03/04-2 [第6項] CRISPR-dCas9技術とAPEX2の近接依存ラベリングを組み合わせて、クロマチンと生体分子との間の局所的相互作用の解析を実現
  3. 2017-04-25 DNAの熱変性を不要にした新たなDNA FISH法 "CASFISH"
  4. 2017-08-26 dCas9ビオチン化によるCAPTURE法を開発し、シスエレメントを捉えた
  5. 2019-09-15 [mRNAsの可視化] アプタマー・スープにペッパーを