1. ヒトゲノムワイドCRISPR-Cas9の最小ライブラリ'MinLinCas9'を構築
[出典] Minimal genome-wide human CRISPR-Cas9 library. Gonçalves E [..] Garnett MJ. bioRxiv. 2019-11-21.
  • Wellcome Sanger Instituteを中心とする研究グループが、245種類の癌細胞株を対象として100,000種類を超えるsgRNAライブラリにより機能喪失実験を行なった Project Score [*] のデータをマイニングすることで、アッセイの感度と特異度を損なうことなくCRISPRスクリーニングを可能とするMinLinCas9を開発した。
  • これまでのゲノムワイドsgRNAsライブラリは、1遺伝子あたり4 sgRNAs以上、のべ69,000種類を超える規模であったところ、46%以上縮減した。
  • MinLinCas9によって、CRISPR/Cas9スクリーンがより効率的に行えるようになり、複雑なモデル (初代培養細胞、オルガノイド、子カルチャー、in vivoスクリーン) や、複雑な形質エンドポイントの判定への可用性が向上する。
  • [*] 2018-12-22 CRISPR-Cas9スクリーニングを使って、癌治療標的候補を仕分けする
2. sgRNA/Cas9/アンチセンスのデリバリーに分岐DNAに基づく自己組織化ナノプラットフォームを開発
[出典] A Self-Assembled Platform Based on Branched DNA for sgRNA/Cas9/Antisense Delivery. Liu J [..] Ding B. J Am Chem Soc. 2019-11-20
 国家纳米(nano)科学中心の研究グループが、癌のin vitro/in vivo療法を目的として、遺伝子編集因子 (核内DNAを標的とするsgRNA/Cas9)と、遺伝子サイレンシング因子 (細胞質内のmRNAを標的とするアンチセンス)とを、共に送達する表題ナノプラットフォームを開発し、PLK1遺伝子をモデルとしてその性能を検証し、この手法によって、細胞毒性を伴うことなく腫瘍増殖を効果的に阻害することを確認した (関連ツイートを以下に引用)。
3. CRISPRオフターゲット:コンテクストの問題
[出典] [EDITORIAL] CRISPR off-targets: a question of context. Haeussler M (Genome Institute, UCSC).  Cell Biol Toxicol. 2019-11-16.
 CRISPRのオフターゲット作用は、ヒトの医療応用においても、主たる障害にはならないと結論

4. マウスES細胞 (mESCs)におけるOct4のcis-およびtrans-調節エレメント (regulatory elements: REs)を、CRISPR-Cas9を介した飽和突然変異誘発実験により同定
[出典] A saturating mutagenesis CRISPR-Cas9 mediated functional genomic screen
identifies cis- and trans- regulatory elements of Oct4 in embryonic stem cells. Canver MC, Tripathi P, Bullen MJ[..] Orkin SH, Das PP. bioRixv. 2019-11-22.  

背景
  • ENCODEプロジェクトから、ヒトゲノムにおいてタンパク質をコードする領域はそのわずかに~2%であり、~80%が遺伝子調節に関わっているとされている。タンパク質をコードしていないノンコーディング領域は、調節エレメント (REs: エンハンサとプロモータ)とノンコーディングRNAs (ncRNAs)をコードする領域とに分類され、さらに、REsは、標的遺伝子との位置関係から、cis-REs (CREs)とtrans-REs (TREs)に分類される。
  • REsは多様な手法で多数推定され、それに対して遅れてきたに機能解析は、CRISPR/Cas9技術の出現によって、CREについては進み始めたが、TREの機能解析は課題に留まっていた。
  • マウスESCsのREsの場合、ESCに特異的な転写因子との共局在、エンハンサーと相関するヒストン・マークおよびDNaseI高感受性から推定されるが、生細胞内での調節機能の解析は進んでいない。
成果
  • Harvard Stem Cell Institute、Monash Universityなどの研究グループは今回、表題にあるようにmESCsにおいて、ゲノムワイドで、cis-とtrans-REsを、CRISPR/Cas9による飽和突然変異誘発とシーケンシングによってスキャンし (cis- and trans-regulatory elements SCANning through Saturating Mutagenesis and Sequencing: ctSCAN-SMS)、mESCsのマスタ多能性調節因子であるPou5f1/Oct4遺伝子の調節に決定的な新たなCREsとTREsを同定し、その調節機構も明らかにした。
  • REsのスキャンは、Oct4遺伝子座の~12 kbにわたるcis-領域のCREsと、2,613種類の高信頼性TREsを対象とし、ctSCAN-SMSによって、新奇REsとして、10種類のCREsと12種類のTREsを同定した。
  • これらのREsは、ノックアウト実験から、そのほとんどが活性であり、Oct4遺伝子発現調節に関与していることを同定した。
  • CREsとTREsのサブセットは、Oct4のプロモータと物理的に相互作用していることも明らかになった。
4. CRISPR/Cas9技術で長日条件下での短日植物大豆の生産を可能に
[出典] Creation of Early Flowering Germplasm of Soybean by CRISPR/Cas9 Technology. Han J [..] Wang X, Qiu LJ. Front Plant Sci. 2019-11-22
 作物科学研究所 (北京)と安徽農業大学などの研究グループが、アグロバクテリウムを介してCRISPR/Cas9発現ベクターを送達することで、大豆のE1タンパク質を編集することで、短日植物である大豆の長日条件下での早期開花を実現した。高緯度地域での大豆生産拡大に期待。