無生物にその設計図や履歴をコードしたDNAを埋め込む‘DNA-of-things’DoT
[出典] A DNA-of-things storage architecture to create materials with embedded memory. Koch J [..] Erlich Y, Grass RN. Nat Biotechnol. 2019-12-09
 今回のNature Biotechnology論文の共同責任著者はそれぞれ、DNAストレージがこれまでの磁気テープや固定ディスクといったデータストレージの物理的限界を超えて、超高密度で超大容量 (215ペタバイト/g)のストレージとして利用可能であり [1]、また、加速劣化試験によって超長期間 (~2,000年)安定なストレージであることを示した [2]二つの論文の筆頭著者Yaniv Erlich (当時NY Genome Center/Columbia U, 現 Erlich Lab LLC)とRobert N. Grass (ETH Zurich)である。
 表題にある‘DNA-of-things’ (DoT)は、インターネットを介して物や事象 (things)同士が繋がる世界を意味する'Internet of Things' (IoT)になぞらえた表現であり、データを書き込んだDNAをナノメーターのサイズのシリカ・ビーズに埋め込み [*]、そのビーズをさまざまな材料に融合することで、具現化された  ( [*] silica particle-encapsulated DNA (SPED)ビーズ]。DoTはこうして、記憶装置としての性能に加えて、自在な形をとることができるという、これまでのストレージには決して無い特徴を備えるに至った。
  • Stanford Bunny [**]光造形用バイナリーデータ (STLファイルフォーマット)100 kbを45 kbに圧縮した上でDNA Fountain [1]により145 ntの長さのDNAオリゴに書き込んだ上で増幅しSPEDビーズに格納した。そのSPEDビーズを生分解性熱可塑性ポリエステルの一種であるポリカプロラクトン(PCL)溶解液と混合し、DNAに書き込んだと同じデータに基づいて3DプリンターによりStanford Bunnyを造形した。
  • 続いて、こうして造形したStanford Bunnyのごく一部 (~10 mg)に由来するSPEDからDNAを抽出してデータを読み出し、そのデータに基づいて3Dプリンターで造形することを繰り返した。1回の操作で、オリジナルのDNAオリゴの5.9%が失われたが、造形データに損傷は見られず、 操作を5回繰り返した後でも、オリジナルの造形データからの劣化は生じなかった。また、9ヶ月の間隔を開けた後の操作でも造形データの劣化は見られなかった。([**] スタンフォード大学にて3Dスキャナー で作成されたウサギモデル; Stanford Computer Graphics LaboratoryのThe Stanford 3D Scanning Repository Webサイトから2019-12-15にキャプチャした下図参照)Stanfod bunny
  • Stanford Bunnyの他に、2分間のビデオのデータ14MBを104 ntのDNAオリゴ300,000本に書き込み、SPEDビーズに融合し、メタクリル酸メチルに混合し、プレキシガラスへと重合化したのち、実用になるメガネレンズに加工した。このレンズから~10 mgの切片を切り出し、Stanford Bunnyの場合と同様にSPEDビーズそしてDNAを抽出しDNA Fountainを介してデータを読み出すことで、ビデオの再生を実現した。この例は、DoTを利用して、日用品の中にデータを隠すこと (ステガノグラフィー)が可能なことを示唆している。
  • DoTストレージは、建築材料や電子材料への品質管理用データの埋め込みや、医療インプラント材料への電子カルテのデータを埋め込みへと、展開可能である。
  • さらに、DoTストレージは、自己複製デバイス開発のツールにもなり得る。
[DNA記憶装置関連論文とレビュー]
  1. DNA Fountain enables a robust and efficient storage architecture. Erlich Y, Zielinski D. Science. 2017-03-03.
  2. Robust chemical preservation of digital information on DNA in silica with error-correcting codes. Grass RN, Heckel R, Puddu M, Paunescu D, Stark WJ. Angew Chem Int Ed Engl. 2015-02-04
  3. [PROTOCOL] Reading and writing digital data in DNA. Meiser LC, Antkowiak PL, Koch J, Chen WD, Kohll AX, Stark WJ, Heckel R, Grass RN. Nat Protoc. 2019-11-20.
  4. [REVIEW] Molecular digital data storage using DNA. Ceze L, Nivala J, Strauss K. Nature. 2019-05-08
[Nature Researchのツイートを以下に引用]