[出典]
[概要]
 Regnase-1はT細胞の活性化を抑制する重要なタンパク質であり、 T細胞におけるRegnase-1の欠損と自己免疫疾患が相関することが報告されていた [下図はRegnase-1によるT細胞の活性化制御のモデル図 (植畑拓也・審良静男, 2003*]。図2
 今回、St Jude Children’s Research Hospitalを主とする研究グループは [**]、CRISPR-Cas9でRegnase-1を欠損させた細胞障害性CD8陽性T細胞集団の腫瘍組織への浸潤と蓄積および持続する抗腫瘍性 (stand the test of time)を、急性リンパ性白血病 (ALL)とメラノーマのマウスモデルで同定し、併用療法も含むCAR-T療法を強化する選択肢を広げた。
[*] Regnase-1Malt1により切断されT細胞の活性化を制御する. 植畑拓也・審良静男. ライフサイエンス新着論文レビュー (2003)
[**] プール型CRISPRスクリーン技術関連でBroad Instituteが参加

CRISPR-Cas9スクリーン
  • CAR-T療法をはじめとする養子T細胞療法 (adoptive T-cell therapy, ACT)は、細胞障害性CD8陽性T細胞の寿命と活性を必要とする。腫瘍微小環境におけるCD8陽性T細胞は、栄養とエネルギーを提供する安定した代謝反応を必要とすると想定されている (その分子機序は未解明)。そこで研究グループは、ACTモデルマウスを対象とする代謝に関連する遺伝子3,017種類を標的とするプール型sgRNAsライブラリーに基づくCRISPR-Cas9ノックアウト・スクリーンから始めた。すなわち、卵白アルブミン(Ova)を発現するB16メラノーマ細胞を播種したマウスに、Ovaを認識するOT-I 抗原受容体に加えてCas9とsgRNAsを発現させたCD8陽性T細胞 (CAR-T細胞)を導入するACTの系において、腫瘍浸潤リンパ球に見出されたCAR-T細胞のsgRNAsをカウントした。
  • プール型CRISPRスクリーンから、その欠損が腫瘍浸潤を亢進する遺伝子として、細胞生存を増殖の制御因子としてよく知られているTxnrd1Ldha, Fth1, およびFoxo1などを同定したが、スクリーンのトップヒットはREGNASE-1 をコードするZc3h12a (Regnase-1)であり、REGNASE-1欠損CAR-T細胞の腫瘍への浸潤・蓄積は、REGNASE-1を欠損していない野生型CAR-T細胞の~2,000倍に至った。REGNASE-1は、RNAに結合・分解し、本記事冒頭にもあるように免疫応答に関与することが知られているが、CD8陽性T細胞の抗腫瘍性への関与は知られていなかった。
REGNASE-1欠損 CD8陽性T細胞(以下、R欠損型細胞)の特徴
  • R欠損型細胞は、メラノーマ・モデルに加えて急性リンパ性白血病 (ALL)モデルでも、持続する抗腫瘍性を発揮した。
  • R欠損型細胞の増殖速度は野生型細胞と同程度であったが、寿命が長く、その結果、蓄積が進んだ。
  • R欠損型細胞と野生型細胞の遺伝子発現プロファイルを比較し、前者のプロファイルにはメモリーT細胞のシグナチャーが顕著であた。これは、R欠損型細胞の場合、長寿命のメモリーT細胞がより多く存在し、細胞障害性CD8T細胞がそこから再生されることが示唆された。また、R欠損型細胞ではミトコンドリアの活性を担う遺伝子が顕著に高発現していた。
  • R欠損型細胞におけるCRISPR-Cas9による~20,000遺伝子を標的とするゲノムワイドスクリーンから、CD8陽性T細胞の分化を制御する転写因子BATFが、R欠損型細胞の長寿化とミトコンドリア活性化に貢献することが示唆された。
  • また、REGENASE-1に加えてPTPN2または SOCS1を同時に欠損させると、寿命、蓄積および抗腫瘍性に相乗効果がもたらされた。
  • R欠損型細胞は、細胞障害性CD8陽性細胞だけでなくメモリー様 (memory-like)T細胞も、野生型細胞よりも高いレベルの細胞障害性因子を発現した。
CAR-T療法・併用療法の可能性
  • CAR-T療法におけるT細胞ex vivo改変の際にREGNASE-1をノックアウトまたは発現抑制の改変を加える。
  • PTPN2またはSOCS1阻害剤を併用する。
関連ツイート引用