[出典] Biases and Blind-Spots in Genome-Wide CRISPR Knockout Screens. Dede M, Kim E, Hart T. bioRxiv. 2020-01-17
# 2020-01-20 18:00 関連crisp_bio記事リスト追加

 酵母とC. elegansを対象とする大規模なスクリーンから、各遺伝子の必須性が遺伝的背景と環境条件によって緩衝(buffering)され、いかなる状況でも生存・成長するには全ての遺伝子が必須であることが示唆された。MD Anderson Cancer Centerの研究グループは今回、ヒト細胞なかでも癌細胞についても同様のことが見えてくるのか、大規模なCRISPR KOスクリーンの公開データ[*]を再解析することで検証し、CRISPR KOスクリーンによる必須遺伝子の判定には偏りや盲点が伴うとした。
[*] Broad研のDepMapリリースPublic 18Qに含まれていた517種類の癌細胞株を対象とするAvana CRISPRスクリーン・データセット;なお、Sanger研のProject Scoreの342種類の癌細胞を対象とするCRISPRスクリーン・データセットについても再解析

 はじめに、Avanaライブラリーから、タンパク質をコードする遺伝子と、単一の遺伝子を標的とするsgRNAsを選択し (複数の遺伝子を標的するsgRNAsを排除)、次いで、遺伝子のコピー数増幅が細胞死の増幅を介して偽陽性の判定をもたらす影響を排除するためにsgRNAsのリード・カウントをCRISPRcleanRで処理した後に、BAGEL v2 build 110を介した必須性の算定とデータの品質管理を経て、 Broad研データセットのうち、23種類の組織に由来する446種類の癌細胞株 (以下、パネル)のデータを詳細に分析した。
  • 単一のCRISPR KOスクリーンは必須遺伝子の20%を見逃す (FNR~20%)。特定の組織型や細胞型に必須な遺伝子 (1,600-1,900と推定)を網羅するには、多重なスクリーンが必要である。
  • 高発現遺伝子群の必須性判定は再現性が良いが、低発現遺伝子群は必須性判定の再現性が低く、偽陰性判定されることが多い。例えば、合成致死の関係にある遺伝子セットの判定などの場合には、膨大な実験を繰り返す必要があると考えられる。
  • パネル全般にわたる累積メタ解析 (cumulative meta-analyses)から、組織型に特異的な必須遺伝子の数は少数であることを同定した。また、その多くが組織分化のパスウエイを規定する転写因子であることも同定した。
  • およそ7,000種類の遺伝子がパネル内で恒常的に発現していた。その半数がいずれのスクリーンでも必須遺伝子と判定されなかったが、これらの"never-essentials"の多くがパラログであった。
  • CRISPR KOスクリーンによる必須性判定には、遺伝的背景を介した必須性「隠し (buffering)」と、環境条件を介した必須性「隠し」を分析する必要がある。
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