[出典] [NEWS FEATURE] Step aside CRISPR, RNA editing is taking off. Reardon S.
Nature 2020-02-04. 

 University of Tübingen大学のThorsten Stafforstは、RNAデアミナーゼ (Adenosine Deaminase Acting on RNA, ADAR)の活性部位にgRNAを融合することでmRNA上での点変異修復が可能とする論文を2012年10月4日にAngew Chem Int Ed Englオンライン版 [1]にて発表するに至ったが、CRISPR-Cas9によるDNA編集 [2]が巻き起こした熱狂の中、注目を集めることはなかった。

 Thorsten Stafforstと同様の経験を現Marine Biological Laboratory in Woods HoleのJ. J. Rosenthal (当時、University of Puerto Rico-Medical Sciences Campus)もしていた。2013年にアフリカツメガエル卵母細胞とヒト細胞株において、ADAR-gRNAにより嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子における未成熟終止コドン変異の修復をPNASから発表 [3]したが、注目を集めることは無かった。

 しかし、Cas9がヒトの免疫応答を引き起こしまた望ましくない変異をDNAに刻み込むリスクを伴い、臨床への展開には課題があることが明らかになるにつれて、RNA編集は、DNAを改変することなく特定の器官や組織においてタンパク質の発現を一時的に改変可能な点を、その利点として、臨床応用の観点から注目を集め始めた。

 Scopusデータベースによると、2019年には、RNA編集に関する論文が400編を超え、RNA編集による治療法の研究開発を進めるスタートアップ企業が現れ始めた。この間、2016年にADARによる塩基置換の構造基盤となるdsRNAに結合したADAR2の立体構造が解かれたこと [4]、2018年にFDAがRNAi治療薬を承認したこと [5]もRNA医薬研究開発への追い風になった。

 現在、Rosenthalは、痛みを脳に伝えるナトリウムチャネルNav1.7の遺伝子を改変することなく、そのmRNAをADAR-gRNAにより一定期間組織特異的に抑制することで、従来の鎮痛剤に診られる依存性をもたらすことのない治療法の開発に取り組んでいる。また、PCK9遺伝子変異による血圧異常を、遺伝子編集ではなくmRNA改変を介して治療する手法の開発も進められている。UCSDの研究グループは、筋ジストロフィーモデルマウスにADAR-gRNAを注入することで、治療効果をもたらすに足るレベルのジストロフィン発現誘導を実現した [6]。ハイデルベルグのドイツ癌研究センターのNina Papavasiliouは、癌細胞に乗っ取られたシグナル伝達経路をRNA編集によって一時的に切り、腫瘍細胞が死滅後に、その経路を復帰することによる癌療法を提案している。

 ADARはバクテリア由来のCas9と異なりヒトタンパク質であることから、ヒトからの免疫応答のリスクを伴わない利点があるが、塩基編集の効率と多様性についてはCas9およびその応用技術に劣る。RNA医薬の実用化に向けては今後、RNA塩基置換の分子機構の理解を深め、RNA塩基置換の効率向上と塩基置換の多様化を実現し、ヒト体内で設計通りに機能させるデリバリー技術を開発し、さらに、RNA編集がもたらす副作用をつめていく、といった多くの課題を解決していく必要があるが、RNA編集への期待は高まっている。
  • MITのOmar Abudayyehは、Feng Zhangらと共同で、ADARとCas13を組み合わせることで、RNAの塩基変換ツールボックスの拡張を実現している[7]。また、ADARにかわって、シュードウリジン (Pseudouridine)を介して、翻訳過程でタンパク質の生産を阻害するあるいは未成熟終止コドンを読み過ごす手法も模索されている。
  • ZhangとLiuが共同設立したBeam TherapeuticsはDNA編集に加えてRNA編集の臨床応用を目指し、その他にも、Rosenthalも参画しているKorro BioLocanaといったスタートアップがRNA編集の研究開発を進めている。
 [引用論文とcrisp_bio記事]
  1. An RNA-deaminase conjugate selectively repairs point mutations. Stafforst T, Schneider MF. Angew Chem Int Ed Engl. 2012 Oct 29;51(44):11166-9. Online 2012-10-04 (Received 2012-08-11)
  2. A programmable dual-RNA-guided DNA endonuclease in adaptive bacterial immunity. Jinek M, Chylinski K, Fonfara I, Hauer M, Doudna JA, Charpentier E. Science. 2012 Aug 17;337(6096):816-21. Online 2012-06-28.
  3. Correction of mutations within the cystic fibrosis transmembrane conductance regulator by site-directed RNA editing. Montiel-Gonzalez MF, Vallecillo-Viejo I, Yudowski GA, Rosenthal JJ. Proc Natl Acad Sci U S A. 2013 Nov 5;110(45):18285-90. Online 2013-10-09
  4. Structures of human ADAR2 bound to dsRNA reveal base-flipping mechanism and basis for site selectivity. Matthews MM,Thomas JM [..] Fisher AJ, Beal PA. Nat Struct Mol Biol. 2016 May;23(5):426-33. Online 2016-04-11
  5. crisp_bio 2018-08-11 FDA、初のRNAi治療薬承認
  6. In vivo RNA editing of point mutations via RNA-guided adenosine deaminases. Katrekar D [..] Mali P. Nat Methods. 2019 Mar;16(3):239-242. Online 2019-02-08
  7. crisp_bio 2019-07-02 RNAの1塩基変換ツールボックス拡張:REPAIR (A-to-I)にRESCUE (C-to-U)加わる