4. CRISPR技術にもとづく生物学的封じ込め
[出典] CRISPR-mediated biocontainment.  Castanon O [..]  Church GM. bioRxiv 2020-02-04.  
  • 哺乳類ゲノムにおいてLINE-1やAluといった転移因子 (トランスポゾン)は、進化の過程で複製を繰り返し、数千から100万を
  • 超えるコピー数に達している。CRISPR-Cas9のようなプログラム可能なDNAヌクレアーゼでこれらを標的することで、細胞を迅速かつ高率で細胞死に誘導する (ヒトゲノムにはLINE-1 ~1万コピー、Alu ~100万コピーが内在)。
  • George M. Churchらはこの遺伝毒性を利用して、生物封じ込め合成回路を研究開発した:目的以外のCRISPRゲノム編集を阻止するCRISPR defense system (CRISPR-DS)を開発;CAR-T細胞療法において癌化やサイトカイン放出症候群の発生を抑止することを念頭に、副作用を示し始めた治療用移植細胞を完全に除去することを可能にするドキシサイクリン誘導性キルスイッチCRISPR Safety-Switchの概念実証
  • [関連crisp_bio記事] 2019-03-16 'ゲノムを書く'に向けて:ヒトiPSCsとHEK293T細胞にて転移因子数千の同時編集をCBE/ABEにより実現
5. DNA修復タンパク質RAD51が、脳神経細胞におけるCRISPR/Cas9ノックイン効率を高める
[出典] DNA repair protein RAD51 enhances the CRISPR/Cas9-mediated knock-in efficiency in brain neurons. Kurihara T [..] Tabuchi K. Biochem Biophys Res Commun 2020-02-03
  • 信州大学を主とする研究グループは、先行研究で、子宮内エレクトロポレーションによって体性感覚皮質2/3層の錐体細胞におけるβアクチン遺伝子のN末端にEGFPをコードする配列をノックインしたが、効率は2%未満であった。今回、5'末端側と3'末端側の相同アームをそれぞれ1.6 kbと2.0 kbに伸ばすことで、効率を~14%まで上げ、RAD51を同時に導入することで、効率を2.5倍まで上げることに成功した。神経細胞の形態はRAD51の過剰発現には影響されなかった。
  • [参考] CRISPR関連文献メモ_2016/09/07 [第1項] 子宮内エレクトロポレーションによる哺乳動物脳の標的への遺伝子ノックイン
6. [レビュー] ヒトiPSC (hiPSC)由来2D疾患モデリング・システムにCRISPRゲノム編集技術を組み合わせることで、ヒトのニューロンとグリアについて、同質遺伝子系での疾患比較解析が実現する
[出典] Integrating CRISPR Engineering and hiPSC-Derived 2D Disease Modeling Systems. Rehbach K, Fernando MB,  Brennand KJ. J Neurosci 2020-02-05
  • Icahn School of Medicine at Mount Sinaiの研究グループによる神経科学者と臨床に向けたレビュー:hiPSC由来疾患モデルの利点; hiPSC由来疾患モデルの課題と限界; 研究計画のポイント (コホートのサイズ, 正確な診断に基づいた被験者の層別化; 理想的なコントロールの選択; 細胞型の選択; アッセイ法の選択; CRISPR KO, CRISPRaそしてまたはCRISPRi)
7. [RESEARCH HIGHLIGHT] MR1を標的とする汎がんT細胞
[出典] [RESEARCH HIGHLIGHT] MR1-restricted pan-cancer T cells. Bird L. Nature Review Immunology 2020-02-05.
  • 紹介論文: Genome-wide CRISPR–Cas9 screening reveals ubiquitous T cell cancer targeting via the monomorphic MHC class I-related protein MR1. Crowther MD et alNat. Immunol. 21, 178–185 (2020)2020-01-23 ヒトMHCクラスⅠb 分子のMR1は、癌免疫療法の新たな標的 (2/2) - 汎ヒト・汎がん療法の可能性も
8. Prime Editing (PE) は病因変異のほとんどを修復する
[出典] DNA Prime Editing: A New CRISPR-Based Method to Correct Most Disease-Causing Mutations. Hampton T. JAMA 2020-02-04
  • ここで紹介されたLiuらのオリジナル論文では「ヒト疾患の責任変異の~89%を修正可能」としている: 2019-10-22 David R. Liuグループからプライムなゲノム編集法 - BEsに続くPEs
9. SpCas-NGによりヒメツリガネゴケとナス科作物 (トマトとバレイショ)のCRISPRツールボックスを拡充
[出典] Expanding the CRISPR Toolbox in P. patens Using SpCas9-NG Variant and Application for Gene and Base Editing in Solanaceae Crops. Veillet F [..] Nogué F. Int J Mol Sci 2020-02-04
  • INRAE (国立農学研究所、フランス)の研究グループは、ヒカリツメゴケとナス科作物 (トマトとバレイショ)のノックアウトとCBEの標的可能範囲をSpCas9-NGとそのニッカーゼによって拡大可能なことを実証した (NGTとNGAをPAMとして認識)。
10. [レビュー] CRISPRのアダプテーション (スペーサ獲得)過程を追跡する手法
[出典] Detection of CRISPR adaptation. Shiriaeva A, Fedorov I, Vyhovskyi D, Severinov K. Biochem Soc Trans 2020-02-03
  • Skolkovo Institute of Science and Technologyの研究グループが、CRISPRシステムが、ファージやプラスミドからスペーサを獲得しCRISPRアレイに記憶する過程を解析する手法を比較
 [アダプテーション関連crisp_bio記事抜粋]
  • CRISPRメモ_2017/09/13 [第1項] CRISPRシステムにおけるスペーサー獲得(adaptation)を迅速定量する蛍光レポーターを開発
  • 2018-10-05 Record-seq:転写事象をCISPRアレイに記録し読み出す [Selective amplification of ExpaNdEd CRISPR arrays, SENECA]
  • 2019-10-11 タイプ I-E/F CRISPR Casシステムのプライム型アダプテーション過程で生成されるスペーサー前駆体を検出
  • CRISPRメモ_2018/09/09 [第2項] E. coliがMGEのDNA断片を獲得するCRISPR-Casアダプテーション過程の詳細
  • CRISPRメモ_2019/04/09 [第3項] Cas4-Cas1融合タンパク質が、PAMの効率的選択をドライブしCRISPRアダプテーションを制御する