[出典] Evaluation and minimization of Cas9-independent off-target DNA editing by cytosine base editorsDoman JL, Raguram A, Newby GA, Liu DR. Nat Biotechnol 2020-02-10

 Base Editors (BEs)に続いてPrime Editors (PEs) [1: crisp_bio 2019-10-22]を開発してきたDavid R. Liuの研究グループは今回、BE3 (オリジナルのCBE)がマウス胚でもイネでもゲノムワイドでオフターゲットのサイトにC:G-to-T:A変換を誘導する[2: crisp_bio 2019-03-02参照]という報告に応えた。
  • BE3はrAPOBEC1–dSpCas9 (A840H)–UGIの構成が、SpCas9-sgRNAで位置決めして、シチジンデアミナーゼで塩基対置換を誘導する。SpCas9を利用することから、BE3は、プロトスペーサ上でNGG PAMから遠い領域における5-ntのウインドウ内 (PAMの座標を21-23とすると、座標~4-8)のCをTへと変換する。
  • BE3はSpCas9を利用することから、SpCas9のオフターゲット・サイトにBE3が結合し活性を示す可能性があり、これまで、 野生型SpCas9を高精度版SpCas9を利用するか、または、タンパク質-RNA複合体として活性を維持的にすることで、オフターゲット・サイトでの塩基置換を抑制することが試みられてきた。
  • このCas9依存オフターゲット変換のリスクに加えて、BE3はCas9に依存しないオフターゲット変換も誘導する。2019年にマウス胚とイネにおいてBE3を過剰発現させると、BE3のデアミナーゼ・ドメインがゲノムワイドでDNAにランダムに結合し、それぞれ、5 × 10−8per bpと5.3 × 10−7per bpの頻度で変換を誘導することが報告された [2: crisp_bio 2019-03-02参照]。
  • このCas9非依存オフターゲット変換の検査には経費も時間もかかる全ゲノムシーケンシングが必要であったことから、研究グループは始めに、Cas9非依存オフターゲット変換を、E. coliまたはヒト細胞株をプラットフォームとして判定するシステムを開発し、このシステムを利用してCas9非依存オフターゲット変換を最小限にしつつオンターゲット変換の効率を損なわないCBE変異型を開発した。
  • 塩基交換によりE. coliが2種類の抗生物質に対する耐性獲得を見ることで、オンターゲット活性と、Cas9非依存オフターゲット活性を判定可能とした。このシステムを利用して、BE3を含むこれまで報告されてきた全てのCBEのデアミナーゼ (POBEC1, AID, CDA, APOBEC3A, APOBEC3BならびにAPOBEC3G)とデアミナーゼ変異体 [*]を評価した。
  • HEK293T細胞において、dSaCas9が誘導するR-ループと外来ssDNAを対象とするアッセイ系と [Fig. 2参照]、精製したCBEタンパク質のin vitroでの運動速度論的アッセイ系を確立・利用し、また、それらのアッセイ系の結果を、HEK293T細胞の全ゲノムシーケンシング解析で検証することも行った。
  • さらに、SpCas9をSpCas9-NG [3: crisp_bio 2018-08-31参照]とSpCas9-CP1028 [4: crisp_bio 2019-05-22参照]に置換し、BE4のフォーマット[5: crisp_bio 2017-09-05]で評価した。
結論
  • オフターゲットを最小限にするCBEsは今回評価した範囲内ではYE1-BE4, YE2-BE4, YEE-BE4, EE-BE4, R33A + K34A-BE4, YE1-BE4-CP1028, YE1-BE4-NGならびにR33A + K34A + H122L + D124N-BE4であり、中でもYE1-BE4を推奨する。
  • これらは一連のCBEsは、BE4maxに対して、Cas9非依存オフターゲット変換を~10-100分の1に、Cas9依存オフターゲット変換を~5-20分の1に抑制し、indels発生を同等または抑制し、その一方で、オンターゲット変換活性の~50-90%を維持する。
  • Nature Biotechnologyから本論文と同時に発表されたnon-G PAMまでPAMを拡張したSpCas9の新たな変異体の論文に、その変異体がCBEに有効であったことも報告されている: "Continuous evolution of SpCas9 variants compatible with non-G PAMs" Miller SM, Wang T [..] Liu DR. Nat Biotechnol 2020-02-10
 [*] 対象としたデアミナーゼ変異体
  • Liuらのオンターゲット変換のウインドウ幅を狭めたAPOBEC1変異体 (W90Y + R126E (YE1), W90Y + R132E (YE2), R126E + R132E (EE), ならびにW90Y + R126E + R132E (YEE))とRNA結合モチーフを欠損させた小型のFERNT
  • Joungらのオフターゲット変換を低減した変異体APOBEC1変異体R33AとR33A + K34A、ならびに5'Tを必須としたAPOBEC3A (eA3A)
[注] J.L.D., A.R.および D.R.L.は本研究に関連する特許を申請; Liuグループは本論文と同時に、グアニンを含まない配列をPAMとして認識するSpCas9変異体開発の論文を発表: crisp_bio 2020-02-13 Liuグループ、グアニンを含まない配列をPAMとするSpCas9変異体をファージによる指向性進化法で実現

 [関連crisp_bio記事]
  1. 2019-10-22 David R. Liuグループからプライムなゲノム編集法 - BEsに続くPEs
  2. 2019-03-02 C-to-T塩基編集(BE3)は、イネでもマウスでも、大規模なオフターゲット変異を伴う
  3. 2018-08-31 SpCas9-NG:SpCas9の標的範囲をさらに広げる合理的な変異導入
  4. 2019-05-22 Cas9改変によりCBEmax/ABEmaxの標的可能領域拡大 (それぞれClinVar病原性SNPsの~30%から~50%へ)
  5. 2017-09-05 塩基編集法(BE)第4世代へ:BE1, BE2, BE3からBE4へ
  6. 2020-02-10 BE3の高精度化 (3) - シチジンデアミナーゼへの変異導入を介して
  7. 2020-02-05 BE3の高精度化 (2) - 標的可能領域拡大と位置特異性付加
  8. 2019-01-31 BE3の高精度化 (1) - シチジンデミナーゼとCas9の間のリンカーの最適化