1. FDA: 相同組換修復 (HDR)過程を介したゲノム編集を経たウシに、目的以外の遺伝子編集が発生
[出典] Template plasmid integration in germline genome-edited cattle. Norris AL [..] Lombradi HA. Nat Biotechnol 2020-02-07.
  • 米国FDAの科学者は、天然に見られる変異遺伝子の導入によりウシを除角すること目的としたTALENとドナーDNAテンプレートに基づくHDRを介した遺伝子編集2例 [1-2]の全ゲノム配列を、参照ゲノム配列にプラスミドも加えてアライメントする再解析を行った。
  • その結果、ドナーDNAテンプレートのプラスミドが遺伝子編集標的サイトにヘテロ型に組み込まれ、また、テンプレートが重複して組み込まれたことを発見した。
  • また、文献調査を経て、ドナーDNAテンプレートのプラスミドの組み込みが、ZFNでもCRISPR-Cas9でも、また、線虫、ゼブラフィッシュ、マウス [3]でも発生するとして、スクリーニング法の改善が必要とした。
2. FDA: 家畜のゲノム編集の規制がなぜ必要なのか?
[出典] CORRESPONDENCE Genome editing in animals: why FDA regulation matters. Solomon SM. Nat Biotechnol 2020-02-07
  • FDAの獣医学センター長Steven Solomonは、前項1のNorrisらの報告を引用し、除角を目指した遺伝子編集がもたらした意図しない結果が毒性をもたらすという主張ではないことを強調しつつ、遺伝子編集を加えた家畜全てについて、市販前承認の手続きとして、想定以外の遺伝子編集が発生していないことを証明する必要があると主張した。
  • 加えて、単一塩基変異が病因となる鎌状赤血球症や嚢胞性線維症と、乳量増を目指して伝統的な育種法で作出されたウシに致死性常染色体劣性疾患である白血球粘着性欠如症(BLAD)が発生した例を上げて、改変の規模や改変の手段によらず、動物の遺伝子編集については望ましくない結果をもたらすことがないことを検証する必要があるとした。
  • さらに、動物の遺伝子編集が、例えば、ホルモン受容体といったタンパク質発現の変化を介して、食品の安全性を損なうことが無いことも、検証する必要があるとした。
  • その上で、最先端の遺伝子編集技術の応用と安全性の確保のバランスを取る方策として、Veterinary Innovation Programを開始したと、主張した。
3. Nature Biotechnology誌の見解 - 遺伝子編集家畜の市販前レビュー (以下、レビュー)義務化をFDAは再考すべき
[出典] EDITORIAL Course correction. Nat Biotechnol 2020-02-07
  • TALEN、ZFNおよびCRSIPR-Casによるウシの除角を目的とする遺伝子編集に伴うドナーDNAテンプレートおよびプラスミド骨格の組み込みは安全性の問題を引き起こすものではなく (FDAセンター長も認めるように)、また、この30年以上、食用動物の遺伝子編集が問題を起こした例は無い。
  • FDAセンター長が例にひいたBLATは、伝統的な育種がFDAのより厳しい規制を必要としていることを意味し、レビューを正当化する事由にはならない。1000 Bull Genomes Projectでは、8,650万を超える自然変異が同定され、専門家は、これらの変異はいずれも、動物にもヒトにも害を及ぼさない、としている。
  • レビューは、経済的にはナンセンスである。過剰な安全性証明を求められた遺伝子編集作物の開発には14年と2,450万ドルが費やされた例があり、関連企業の家畜の品種改良を遺伝子編集技術で進めようとする意欲を失わせるであろう。
  • FDAはバイオ医薬品の承認を加速する一方で、何故、遺伝子編集動物についてそこまで用心深いのか?
  • 製薬企業と異なって家畜産業の企業は少なく、一方で、FDAが5年前に承認したAquaBounty’s AquAdvantage salmonが未だ米国市場には出回らないほど、アンチGMO/プロ・オーガニックのロビーの影響力が強いことが一因である。
  • また、命に関わる薬品はワシントンの幅広い支持を受け、食料が豊富な現状で、米国の一般社会は、菜食主義や食肉の代用品に関心を向け、「医療にはビクトリア朝を求めないが、農業にはビクトリア朝を求める」空気である。こうした社会的背景のもと、FDAはことなかれ (crisp_bioの意訳)で行こうとしている。
  • FDAは、レビューを、導入された形質がもたらす危険性に応じて遺伝子編集動物を規制するコースへと誘導していくことができるのではないか。このコースはUSDAの方針および長年続いてきた米国の規制のあり方と整合し、家畜の品種改良を目指す企業に機会を与える。さらに、遺伝子編集動物は全て公衆衛生と動物福祉を害するとするレッテル貼りを予防することにもなる。
[引用論文と参考記事]
  1. Production of hornless dairy cattle from genome-edited cell lines. Carlson DF [..] Fahrenkrug SC. Nat Biotechnol. 2016-05-06
  2. Efficient nonmeiotic allele introgression in livestock using custom endonucleases. Proc Natl Acad Sci U S A. 2013 Oct 8;110(41):16526-31. Online 2013-09-06. 
  3. CRISPRメモ_2019/03/11 [第4項] CRISPR/Cas9 HDRにおいて、ドナーDNAテンプレートの多重挿入が高頻度で発生する
  4. crisp_bio 2019-10-10 ゲノム編集技術により、牛の除角を畜産業から除去する