# 2020-02-19 初回投稿
[2020-02-19 
crisp_bio注] 本記事は、RCSB PDBのDavid S. Goodsell氏とPDBj国際的な運営高度化グループの工藤高裕氏のご了解のもとに、PDBj入門:PDBjの生体高分子学習ポータルサイトから、「今月の分子」の242: コロナウイルスプロテーアーゼ (Coronavirus Protease)の項の画像を含む全文を転載したものです。本稿のテキストと画像の再利用につきましては、PDBjのWebサイト上の利用規約のページにあります「お問い合わせフォーム」からPDBjにご相談下さい;「今月の分子」は、X線結晶構造解析で解かれた阻害剤に結合した状態のPDBエントリー6lu7に基づいている。別のグループによるbioRxiv投稿ではクライオ電顕法により、ヒト細胞上の受容体ACE2に結合する前の三量体の構造 (crisp_bio 2020-02-19参照)とACE2に結合した状態の構造 (crisp_bio 2020-02-21参照)が報告されている。

日本語訳 (c)Takahiro Kudou and PDBj (英語原文 (c)David S. Goodsell and RCSB PDB)
画像 CC-BY-4.0ライセンス (c)David S. Goodsell and RCSB PDB

242: コロナウイルスプロテアーゼ(Coronavirus Proteases)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)

2019新型コロナウイルスの主要プロテアーゼ。結合している阻害剤は水色で示す。
2019新型コロナウイルスの主要プロテアーゼ。結合している阻害剤は水色で示す。

素早く簡単に旅行ができるこの世界において、ウイルスの出現は世界の健康にとってますます大きな脅威となっている。コロナウイルス(coronavirus)はよく知られた例の一つである。特に自然動物の宿主より病原性のものが出ることが人間社会に脅威をもたらしている。2003年、中国でコウモリの群れから現れたSARS(Severe Acute Respiratory Syndrome、重症急性呼吸器症候群)ウイルスはジャコウネコに移り、最終的にはヒトに感染した。その10年後、MERS(Middle East Respiratory Syndrome、中東呼吸器症候群)も同じようにコウモリから出現し、中東でヒトコブラクダへ、そしてヒトへと感染していった。最近、別のコロナウイルスが海鮮市場の動物から出現した。私たちがこの危険な敵を理解する上で構造生物学は助けとなるだろう。またうまくいけばこれらと戦う新たな方法を開発するのにも構造生物学は役立つだろう。

コロナウイルスの遺伝子コード

コロナウイルスは、長いRNA鎖でできたゲノムを持ち、そのゲノムサイズはRNAウイルスの中では最大級である。細胞に感染すると、このゲノムは伝令RNA(messenger RNA)のように働き、2つの長いポリプロテイン(polyprotein)を合成するよう指示する。このポリプロテインには、ウイルスが新たなウイルスを複製するのに必要なしくみが含まれている。詳しく言うとこの中には、さらなるRNAをつくる複製/転写複合体、新たなウイルス粒子を構築する構造タンパク質、そして2つのプロテアーゼ(protease、タンパク質分解酵素)がある。プロテアーゼはポリプロテインを切断し、これらすべての機能断片をつくり出すのに不可欠な役割を果たす。

主要プロテアーゼ

コロナウイルスの主要プロテアーゼ(main protease)はこれら切断反応のほとんどを行っている。ここに示す構造(PDBエントリー6lu7)は、中国の武漢で危機が広まっている2019新型コロナウイルス(2019-nCoV)から得られたものである。これは同じサブユニットが2つ集まり2つの活性部位をつくっている2量体である。このタンパク質の折りたたみ様式はトリプシン(trypsin)のようなセリンプロテアーゼと似ているが、アミノ酸のシステインとその近くにあるヒスチジンがタンパク質切断反応を行い、別のドメインがこの2量体を安定化させている。この構造では活性部位にペプチド様の阻害剤が結合している。

SARSのプロテアーゼ

SARSの主要プロテアーゼ(上)とパパイン様プロテアーゼ(下)。結合している阻害剤は水色で示す。
SARSの主要プロテアーゼ(上)とパパイン様プロテアーゼ(下)。結合している阻害剤は水色で示す。

SARS由来のプロテアーゼを2つここに示す。主要プロテアーゼ(main protease、PDBエントリー1q2w)は武漢で発生したものと似ていて、ポリプロテインを11箇所で切断する。パパイン様プロテアーゼ(papain-like protease、PDBエントリー4ow0)サブユニット1つでできている酵素で、反応にはシステインも使う。これはSARSポリプロテインを特定の3箇所で切断する他、感染先細胞の中でもいくつかのタンパク質を切断する。後者には、ユビキチン化されたタンパク質からユビキチン(ubiquitin)を除去する作用が含まれる。この脱ユビキチン化の結果、自然免疫系でインターフェロン(interferon)をつくる働きが妨げられ、ウイルスに対抗する私たちの防衛システムの一部が回避される。

構造をみる

阻害剤が結合したコウモリのコロナウイルス主要プロテアーゼ

表示方式: 静止画像  

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この構造を利用し、このプロテアーゼの働きを阻害し抗ウイルス薬として使える化合物を探す研究が積極的に進められている。その際、コロナウイルスにさまざまな種類のあることが事を難しくしている。コロナウイルスは4つの属に分類されていて、これらの配列と構造は大きく異なることが研究の結果分かっている。そのため、ある一つのタイプに効く薬は他のタイプには効かないものとなるだろう。この問題を解決に導く可能性のある一つの方法は、祖先となるコウモリのコロナウイルスに効くことを目指した広い対象に効く阻害剤を設計することである。ここに示す構造(PDBエントリー4yoi)はその一例で、新たに出現するウイルスに対する阻害剤を見つけるためのきっかけとなるかもしれない。図には活性部位にあるシステインとヒスチジン、そしてこれらと結合する阻害剤(水色の部分)を示している。この構造をより詳しくみるため、図の下のボタンをクリックして対話的操作のできる画像に切り替えてみて欲しい。

理解を深めるためのトピックス

  1. 珍しい8量体の主要プロテアーゼはこのタンパク質を最終的な機能する形にするのに関係しています。その様子をPDBエントリー3iwmで見ることができます。
  2. RCSB PDBのStructure AlignツールやPDBjのASHウェブサービスを使ってコロナウイルス主要プロテアーゼとセリンプロテアーゼの構造を比較することができます。比較する際、酵素全体が1本の鎖になっているトリプシノーゲン(trypsinogen、PDBエントリー1tgs)を使ってみてください。

参考文献

  1. Cui, J., Li, F., Shi, Z.L. 2019 Origin and evolution of pathogenic coronaviruses. Nat. Rev. Microbiol. 17181-192 
  2. 4yoiSt John, S.E., Tomar, S., Stauffer, S.R., Mesecar, A.D. 2015 Targeting zoonotic viruses: Structure-based inhibition of the 3C-like protease from bat coronavirus HKU4-The likely reservoir host to the human coronavirus that causes Middle East Respiratory Syndrome (MERS). Bioorg.Med.Chem. 236036-6048 
  3. 4ow0Baez-Santos, Y.M., Barraza, S.J., Wilson, M.W., Agius, M.P., Mielech, A.M., Davis, N.M., Baker, S.C., Larsen, S.D., Mesecar, A.D. 2014 X-ray Structural and Biological Evaluation of a Series of Potent and Highly Selective Inhibitors of Human Coronavirus Papain-like Proteases. J.Med.Chem. 572393-2412 
  4. Hilgenfeld, R. 2014 From SARS to MERS: crystallographic studies on coronaviral proteases enable antiviral drug design. FEBS J. 2814085-4096 
  5. 1q2wPollack, A. 2003 Company says it mapped part of SARS virus. New York Times July 30, section Cpage 2