[出典] The promise and challenge of therapeutic genome editing. Doudna, JA. Nature 2020-02-12

 CRISPRゲノム編集技術は5-10年のうちに、いくつかのヒト疾患について、クリニックによる治療に適用されるようになることが見えている。この驀進し続けるCRISPR医療技術についていまこそ、学術研究、臨床および生命倫理と、医療経済ならびに規制に関わるコミュニティーとが協働して、CRISPRゲノム編集技術による安全で効果的な医療を誰でもが受けられるような社会への道筋をつけておく時である。

単一遺伝子疾患の事例 - 鎌状赤血球症 (SCD)とデュシェンヌ型筋ジストロフィー (DMD)
  • Fig. 1: Ex vivo and in vivo genome editing to treat human disease.
  • SCD: βグロビン (HBBex vivo 造血幹細胞においてA-to-T (Glu-to-Val): CRISPR-Cas9 HDRによる野生型遺伝子への修復や胎児型γグロビンの発現誘導; ex vivo
  • DMD: ジストロフィン遺伝子 in vivoエクソン51の読み飛ばしなど; in vivo
ゲノム編集戦略の拡がり
組織特異的デリバリーの実現
  • Table 1 Methods for delivering genome-editing tools
  • ナノ粒子、ウイルスおよびRNPsによるデリバーについて、特徴、サイズ、デリバリー対象、長所、短所および標的組織の一覧
ゲノム編集のaccuracy, precisionおよび安全性の課題は解決可能
  • Accuracy (オンターゲット編集とオフターゲット編集の比とprecision (オンターゲット編集結果に、意図した編集結果が占める比)の双方を精密に判定する必要があり、米国NISTは、その標準化に向けて、Genome Editing Consortiumを設置
  • 編集結果の予測を困難にする二本鎖DNA切断 (DSB)を回避する手法 (dCas9と転写制御因子またはエピゲノム制御因子の融合;デアミナーゼの融合によるbase editing)についても、accuracy, precisionおよび安全性の評価が必須
  • ゲノム編集システムの免疫原性の精査
ゲノム編集医療のコスト
  • 体細胞ゲノム編集技術によるCAR-T細胞療法、SCDなどの血液疾患治療、眼疾患の治療の治験が進行中、DMD治療の治験が始まる。
  • CRISPR技術は誰でもが使える技術になったが、ゲノム編集医療は極めて高額になる。SCDの場合は、標的変異が共通であるが、それでも一人あたり~100,000 USドルの治療を数百万人に行うことになる。多様な病因変異が存在するDMDの場合は、個々に病因変異を同定した上で、最適なCRISPRシステムを設計・利用することになり、また、早期診断が予後に直結するため、SCDよりも複雑な治療となり、かつ、一人あたりの経費もより高額な治療となる。
  • ゲノム編集医療の発展のためには、ガイドラインと経費分担の新たな枠組みが必要である。
ヒト生殖細胞系列のゲノム編集
  • Fig. 4: Editing the human germline
  • ヒトの発生機構を理解するためには、ヒト胚ゲノム編集は有用である: ヒト胚におけるCRISPR-Cas9ゲノム編集がもたらす結果についての報告は、未だ、混沌とした状態であり (例えば、DSBの修復が外来ドナーDNAテンプレートによるのか、遺伝子座の他のアレルをテンプレートとするのか)、また、発生初期においてマウスとヒトの間で一連の遺伝子の作用が異なることが明らかになってきた (crisp_bio 2017-09-22)。
  • CRISPRbabies以後、続いている 将来のヒト胚ゲノム編集による遺伝疾患治療の前提条件の設定に至るまでの議論