1. 同一バクテリア内の異なるCRISPS-Casサブタイプの協働の新たな形
[出典] "Cooperation between CRISPR-Cas types enables adaptation in an RNA-targeting system" Hoikkala V [..]  Sundberg LR. bioRxiv 2020-02-20
 U Jyväskylä, U HelsinkiおよびU Wisconsin-Milwaukeeの研究グループの投稿
  • 魚類の病源菌Flavobacterium columnareはCRISPR-CasのサブタイプVI-BとII-Cの2種類の遺伝子座を帯びている。
  • VI-Bはスペーサ獲得因子を欠いているが、特定の栄養条件で溶菌dsDNAファージに暴露すると、双方の遺伝子座がスペーサを獲得する。
  • 新たに獲得されたスペーサにおいて、PAM配列とプロトスペーサの局在パターンは共通であるが、II-Cはほとんどファージを標的とする一方で、VI-Bはファージに対するのと同程度、自己mRNAを標的とする。
  • II-Cからcas1を削除すると、いずれの遺伝子座からもスペーサ獲得が失われる。
  • VI-Bは、DNAを標的とするII-Cのスペーサ獲得機構を借りて、in transにスペーサを獲得する
2. タイプIII CRISPRシステムのコラテラルRNA切断に関与するリボヌクレアーゼCsm6の活性化と自己不活性化の分子機構
[出典] "Activation and self-inactivation mechanisms of the cyclic oligoadenylate-dependent CRISPR ribonuclease Csm6" Garcia-Doval C [..] Jinek M. bioRxiv 2020-02-19.  [構造情報] PDB ID: 6TUG 

 タイプIII CRISPR-Casシステムは標的RNAに結合すると、ATPからセカンドメッセンジャーとして機能するサイクリックアデニル酸 (cOAn)を合成し、このcOAnを介してCsm/CsxファミリーのRNasesを活性化し、RNAを非選択的に大量に分解する(コラレテラルRNA分解)。
  • cOA4を介したコラテラルRNA分解の機構は先行研究 [1-2]で明らかにされてきたが、M. JinekらのU Zurich, ETH Zurich, Biolog Life Science InstituteおよびRockefeller Uの研究グループは今回、Enteroccocus italicusのCsm6 (EiCsm6)とcOA6ミミックの複合体構造解析、生化学的解析およびin vivo機能解析により、cOA6を介したEiCsm6の活性化の分子機序モデルを提唱した。
  • また、cOA4シグナル伝達によるRNAコラテラル分解を停止させるCARFドメインのリングヌクレアーゼに変わって、EiCsm6がcOA6の活性化因子を分解することが、cOA6シグナル伝達のオフスイッチとして機能することを示した。
[cOA4を介したコラテラルRNA分解に関するcrisp_bio記事]
  1. crisp_bio 2019-07-23 タイプIII-A CRISPRシステムにおけるRNA非選択的切断の構造基盤
  2. crisp_bio 2019-09-25 タイプ III-B CRISPR-CasシステムがssRNAを分解する構造基盤
3. SELEX法において、CRISPR技術により作出した同質遺伝子系細胞のペアをホストとすることで、内在膜タンパク質に対して高い特異性を示すアプタマー構築を実現
[出典] "CRISPR-mediated isogenic cell-SELEX approach for generating highly specific aptamers against native membrane proteins" Rosch JC [..] Lippmann ES. bioRxiv 2020-02-17
 Vanderbilt UとU Michigan School of Medicineの研究グループは、Cas9を恒常的に発現させたCaco-2上皮細胞株にsgRNAsをリポフェクションすることで、グルコーストランスポーターGLUT1をコードする SLC2A1遺伝子をノックアウトした GLUT1ヌルCaco-2細胞と野生型Casco-2細胞を利用して、標的タンパク質に非特異的なバインダーの除去につづいて標的タンパク質に高い親和性を帯びたアプタマーを選別・増幅し、次のラウンドの入力とすることを10回繰り返すことで、GLUT1受容体への特異性が極めて高いアプタマーに到達した (Figure 1引用下図参照)。SELEX
4. 殺菌剤オキサチアピプロリンに対する卵菌類病原菌Phytophthora sojaeの耐性変異を同定
[出典]  "Multiple point mutations in PsORP1 gene conferring different resistance levels to oxathiapiprolin confirmed using CRISPR‐Cas9 in Phytophthora sojae" Miao J, Liu X, Li G, Du X, Liu X. Pest Manag Sci 2020-02-14.
  • 西北農林科技大学 (咸陽市)の研究チームは今回、Cas9、2種類のsgRNAおよびテンプレートをポリエチレン グリコールによるプロトプラスト形質転換法でデリバリーし、HDRを介して点変異を導入するスクリニングで、新たに、PsORP1におけるL733W, S768F, S768Y, N837Y, N837F, P861H, L863W, およびI877Yが、表題耐性変異であることを同定した。
5. 殺虫剤スピノサドに対する農業害虫シロイチモジヨトSpodoptera exiguaの耐性は、ニコチン性アセチルコリン受容体 (nAChR) α6 (Seα6)に由来する
[出典] "Functional validation of nicotinic acetylcholine receptor (nAChR) α6 as a target of spinosyns in Spodoptera exigua utilizing the CRISPR/Cas9 system" Zuo Y [..] Hu Z. Pest Manag Sci 2020-02-13
  • 西北農林科技大学 (咸陽市)と南京農業大学の研究グループは、CRISPR/Cas9によりSeα6から~1760-bpを削除することで (Seα6‐KO)、生成された未成熟終止コドンがもたらす短縮形Seα6によって、スピノサド耐性が著しく亢進することを見出した。