[出典] "Functional assessment of cell entry and receptor usage for SARS-CoV-2 and other lineage B betacoronaviruses" Letko M, Marzi A, Munster V. Nat Microbiol 2020-02-24; [BEHIND PAPER] Making sense of the virome with functional viromics. Letko M. Nat Microbiol 2020-02-24. 

成果
  • NISID/NIHの研究チームは今回、SARS-CoVの受容体結合ドメイン (RBD)を、配列データから合成した野生動物CoVのRBDに置換することで、野生動物CoV (コロナウイルス)のヒトへの感染能をin vitroで評価する手法を開発した (Fig. 1参照)。
  • この手法は、CoVのS全長 (~ 4kb)を合成することなく、短いRBDの合成で進められることから、ヒト細胞への感染能の評価に必要な時間と経費を大幅に節約することになり、比較的ハイスループットのスクリーンを実行可能にした。
  • SARS-CoVやSARS-CoV-2が属するベータCoVの系統B (lineage B)に属するCoVの配列データから、29種類のユニークなRBD配列を抽出し、進化系統樹を算出したところ、3つのクレイド(clades)が現れた。その中で、SARS-CoVを含むクレード1だけが、非ヒト霊長類、ヒトおよびブタの細胞株に侵入可能であり、また、SARS-CoV-2がSARSCoVと同じくヒトACE2を受容体として利用することを見出した。
  • また、野生動物の系統B CoVがヒトへの感染能を獲得することに対して、RBDと受容体との相互作用に加えて宿主プロテアーゼによるSの切断過程が障壁になっていること、この障壁をヒト細胞の未知の受容体と結合することで乗り越える野生動物CoVが存在すること、クレイド間の組換を介してヒトへの感染能を獲得するCoVが生成されること、を見出した。
  • すなわち、SARS-CoV-2にとどまらず、今後も、野生動物CoVがヒトに感染しアウトブレイクが発生する可能性が示唆された。
研究チームが"RBD置換法"を発想するに至った背景
  • コウモリに由来するCoVがヒトへの感染能を獲得したことで発生したとされる重症急性呼吸器症候群 (SARS)のアウトブレイク以来、国際的なviromicsプロジェクトにおいて、世界各地に生息している多様な野生動物に由来するCoVについて、その全ゲノムまたはゲノムの一部の配列が、数千件解析されてきた。
  • 野生動物のCoVのほとんどについてヒトへの感染例が見られないが、ベータCoV属のヒト感染CoVに遺伝的に近縁な野生動物CoVが多数発見されている。
  • CoVの中でベータCoV属は、AからDまでの4種類の系統に分類され 、SARS-CoVとSARS-CoV-2が属する系統Bからは200件の配列が、MERS-CoVが属する系統Cからは~500件の配列が、報告されている。また、CoVの新規配列が年々増え続けている。しかし、この膨大な配列データの活用が進んでおらず、野生動物CoVのヒトへの感染能を判定することも不可能であった。
  • ベータCoVを対象とする実験は、CoVの野生動物からの分離に成功することが稀であり、といっても、組換えウイルスに基づく逆遺伝学は多大な作業と~US$15,000を要するゲノム合成を必要とすることから、現実的ではなかった。
  • 種を超えた感染の鍵は宿主細胞への侵入である。CoVはすべて、宿主細胞の受容体に結合しCoVの宿主細胞への侵入を実現するスパイク糖タンパク質 (以下, S)を帯びている。ベータCoVの場合、そのRBDを介してSが宿主細胞の受容体に結合し、続いて、Sが宿主細胞のプロテアーゼで切断されることで、Sの中の細胞融合ペプチドが活性を発揮し、CoVが宿主細胞へと侵入する。
  • ベータCoVに対する宿主細胞の受容体としては、これまで、SARS-CoVに対するアンジオテンシン変換酵素 2 (ACE2)とMERS-CoVに対するジペプチジルペプチダーゼ4 (DPP4)の2種類が知られていた。
  • CoVの構造解析から、SのRBDがSの他の領域とは独立に3次元構造を取ることができ、また、それ自体が宿主細胞の受容体に結合するに必要十分な情報を備えていることが明らかになっている。加えて、コウモリの系統BのウイルスRp3のRBDをSARS-CoVのSのRBDに置換すると、コウモリ由来CoVがヒト細胞に侵入可能になることが示されていた。