1. [レビュー] CRISPR技術による遺伝子編集と転写調節のマルチプレックス化
[出典] "Multiplexed CRISPR technologies for gene editing and transcriptional regulation" McCarty NS, Graham AE, Studená L, Ledesma-Amaro R. Nat Commun 2020-03-09
  • CRISPR技術を適用する標的が、単一の遺伝子から、一連の遺伝子セットへと、広がってきた。"CRISPR & multiplex"によるPubMed検索のヒット数が、2013年は4件であったが、2018年と2019年はそれぞれ81件と72件に、2020年に入って1~3月上旬までで22件に達した。
  • Caltechと Imperial College Londonの研究チームが、gRNAsの多重化によるCRISPR編集、CRISPRaおよびCRISPRiの多重化 (Fig. 1引用左下図)から、多重gRNAライブラリーの構築法について詳細に述べ(Table 1 Assembly methods and efficiencies for multiplexed CRISPR systems参照)、続いて、多重化CRISPR技術の応用 (Fig. 4引用右下図)として、デジタル論理回路, 多入力バイオセンシングと診断, 遺伝型と表現型の複合マッピング, 多重な事象の検知と記録, 効率的な微生物工学や疾患モデル作出、および代謝工学に言及した後、多重化の課題を論じ、将来を展望した。
Multi-CRISPR 1 Multi-CRISPR 4
2. ゲノムワイドCRISPRiによりERファジーの制御因子200種類ひいては意外な制御パスウエイを発見
[出典] "A Genome-wide ER-phagy Screen Highlights Key Roles of Mitochondrial Metabolism and ER-Resident UFMylation" Liang JR, Lingeman E [..] Corn JE. Cell 2020-03-10

 選択的オートファジーの一種であるERファジーは、ニューロパチーに関連することが示唆されているが、その制御機構はほとんど分かっていない。UC Berkeleyを主とする研究グループは今回、ERファジーのレポータとCRISPRiスクリーニングにより、ERファジー制御因子を高い信頼性で200種類同定し、ERファジーに関与する予想外な2種類のパスウエーを発見した
  • ミトコンドリアの代謝が低下すると、通常のオートファジーと反対に、ERファジーが抑制される: ミトコンドリアOXPHOS システムのノックアウトによって、阻害される。
  • ER内でのUFMylationが、IRE1αを介した小胞体ストレス応答 (unfolded protein response, UPR)を抑制し、ERシートのオートファジーを促進する: UFL1リガーゼがDDRGK1によって小胞体膜表面へ輸送され、RPN1とRPL26をufmylationし、ERシートを選択的に分解する。この機序は、ミトコンドリアの選択的オートファジー (マイトファジー)におけるPINK1-Parkinによる制御に類似している。
  • [注] UFmylateion: ユビキチン-フォールド修飾因子1 (UFM1)は3段階の酵素反応を経て基質タンパク質に結合する。E1様活性化酵素UBA5によって活性化され、E2様結合酵素UFC1に転移し、E3酵素UFL1を介して、基質タンパク質に共有結合する。
 参考: UFMylationとERファジー関連レビュー
  1. "The UFMylation System in Proteostasis and Beyond" Gerakis Y, Quintero M, Li H, Hetz C. Trends Cell Biol. 2019-11-06
  2. "UFMylation: A Unique & Fashionable Modification for Life" Wei Y, Xu X. Genomics Proteomics Bioinformatics. 2016-05-20
  3. "Receptor-mediated selective autophagy degrades the endoplasmic reticulum and the nucleus" 持田啓佑 [..] 中戸川 仁. Nature 2015-06-03
  4. "ER-phagy and human diseases" Hübner CA, Dikic  I. Cell Death & Differ. 2019-10-28
3. 誘導可能なS. cerevisiaeに最適化CRISPRiライブラリの構築
[出典] "An inducible CRISPR-interference library for genetic interrogation of Saccharomyces cerevisiae biology" Momen-Roknabadi A [..] Tavazoie S. bioRxiv 2020-03-05
  • オフターゲット編集が抑制されオンターゲット編集の効率が高いgRNAの設計は、標的生物種に依存することから、Columbia Uの研究チームは、Smithらの先行研究 [1-2]から提唱されたS. cerevisiaeCRISPR遺伝子編集用のgRNAsの設計ルールに沿って、S. cerevisiae のゲノムワイドCRISPRi用gRNAライブラリーを構築した。
  • 加えて、コンテクストに依存した遺伝子抑制や必須遺伝子の機能解析を実現するために、Tet発現誘導システムを導入して、MAGICシステム [3]には欠けていた誘導性を付した。
  • このシステムによって、ハプロ不全遺伝子の発見、アデニンとアルギニンの生合成に関与する制御遺伝子の同定が可能なことを実証した。
 関連crisp_bio記事
  1. "A method for high-throughput production of sequence-verified DNAlibraries and strain collections" Smith JD [..] St Onge RP. Mol Sys Biol 2017-02-13
  2. CRISPR関連文献メモ_2016/03/15-1 #2 Saccharomyces cerevisiae の定量的CRISPRiによって、化学遺伝学相互作用とgRNA設計の新ルールを同定
  3. 2019-12-26 多重遺伝子の活性化・抑制・欠損を併用するCRISPR-AIDにより複雑な表現型の制御を実現するマジック
4. Casilio法*により繰り返しの無い遺伝子座の可視化を介して単一細胞におけるゲノム動態追跡を実現
[出典] "CRISPR-mediated Multiplexed Live Cell Imaging of Nonrepetitive Genomic Loci" Clow PA, Jillette N, Zhu JJ, Cheng AW. bioRxiv 2020-03-05. [*] Casilio法はJackson Labの研究グループが先行研究で開発していた可視化法であり、AddGeneのブログに分かり易く解説されている ["Cheng Lab CRISPR Casilio Plasmids"]
  • CRISPR技術による繰り返しの無い単一遺伝子座の可視化には、S/Nの問題から、繰り返しの多い遺伝子座とは異なり、同一遺伝子を多数のgRNAsで標的する必要がある。Casilio法によって、1 gRNAだけで単一遺伝子座を高い時空間分解能 秒単位・28 kbで可視化可能なことを示した。この特徴を活かして:
  • Casilioによって、コヒーシンに結合した因子間のダイナミックな相互作用を、生細胞中のネイティブな染色体において可視化・追跡
  • 蛍光タンパク質Cloverを帯びたCasilioプローブと蛍光タンパク質mRuby2を帯びたCasilioプローブのペアを利用して、コヒーシンを介したクロマチンの相互作用を可視化
  • 一連の繰り返しのない遺伝子座を連続するCasilioプローブで同時に追跡するPISCES (Programmable Imaging of Structure with Casilio Emitted sequence of Signal)法を確立し、生細胞内でゲノムの~70 kbにわたる領域のフォールディングを可視化
 Casilio関連crisp_bio記事
5. ゲノムワイドCRISPRiにより、E. coliのコーディングおよびノンコーディング・機能エレメントを、ゲノムワイドで探った
[出典] "Systematic genome-wide querying of coding and non-coding functional elements in E. coliusing CRISPRi" Rishi HS [..] Arkin AP. bioRxiv 2020-03-05
  • UC Berkeley, 清華大学信息技術研究院, およびStanford Uの研究グループは今回、E. coli MG1655 K-12の殆ど全てのタンパク質コーディング遺伝子、ノンコーディングRNAs、プロモーター、および転写因子結合部位 (TFBSs)を含む~13,000種類のゲノム要素を標的とする~33,000メンバーのsgRNAライブラリーに基づくCRISPRiスクリーンを行った。このライブラリーはE. coliを対象とするこれまでで最もコンパクトかつ網羅的なCRISPRiライブラリーである。
  • また、dCas9とsgRNAの発現をそれぞれアラビノースとテトラサイクリンで誘導するdCas9-gRNAとすることで、コンテクストに依存したゲノム要素の必須性、プロモーターのノックダウンの作用がターゲッティングの向きに依存することなど、これまでのハイスループットスクリーニングでは捉えられなかった情報の獲得が可能になった。