[出典] "CRISPR screens in cancer spheroids identify 3D growth-specific vulnerabilities" Han K [..] Bassik MC. Nature 2020-03-11.

背景
  • がんゲノミクスによって大量に同定されくる発癌/癌抑制遺伝子候補の機能を、ハイスループットで精度良く同定可能とする手法が求められている。
  • これまでに、遺伝子改変モデル動物、ヒト癌移植モデル動物、2次元培養細胞ならびにin vitro オルガノイドモデルが機能ゲノミクスのプラットフォームとして利用されてきたが、スケーラビリティー、時間、経費、腫瘍のフェノタイプおよび分子機序の再現性など、一長一短あった。
  • Stanford U School of Medicine, Stanford UならびにUCSFの研究グループは今回、癌細胞の3次元培養で得られる細胞の塊である 癌スフェロイドを対象とするCRISPRスクリーンが癌遺伝子ゲノミクスに有用であることを示した。
主たる実験
  • 研究グループは、始めに、低接着表面上でのH23肺腺癌細胞株~1.6x108個からなる3次元スフェロイド (以下、3D)形成を実現した。
  • H23細胞の2次元培養単一層 (以下、2D)とともに、細胞増殖を指標とするゲノムワイドCRISPRスクリーンを実施し、各遺伝子のノックアウトがH23増殖に及ぼす作用を比較した。また、H23を皮下移植したマウスでのin vivoスクリーンとも比較した。
2Dと3Dの比較
  • 2Dに対して3Dの方が各遺伝子ノックアウトに対するin vivoでの癌細胞の振る舞いをより精確に再現した。
  • 肺癌細胞で高頻度で変異している遺伝子群について、2Dの結果と3Dの結果に顕著な差異が見られた。例えば、癌抑制遺伝子ノックアウトが、2Dでは、癌遺伝子ノックアウトと同程度な増殖抑制効果をもたらしたが、3Dでは、増殖を亢進する傾向を明確に示した。
  • 3Dとin vivoで癌増殖に必須と判定された遺伝子が、2Dでは必ずしも必須判定にはならなかった。
新たな治療標的候補CPD
  • DepMapプロジェクトにおけるフェノタイプと相関する機能モジュールを構成する遺伝子群を対象とする多重遺伝子KOスクリーンも行い、カルボキシペプチダーゼD (CPD)遺伝子欠損によってインスリン様成長因子1受容体(IFG1R)のシグナル伝達を阻害することを見出した。
  • 続いて、抗体を利用した実験により、CPDタンパク質がIGF1Rのα鎖C末端のRKRRモチーフを除去することで、IGF1Rの成熟を促す機序を明らかにした。
  • マウスモデルにおけるCRISPR KO実験から、CPDの欠損が腫瘍の増殖を抑制することを確認した。
  • PRECOG (PREdiction of Clinical Outcomes from Genomic profiles)を利用した解析により、CPDタンパク質の高発現が肺腺癌患者の予後不良と相関することを見出した。
  • H23細胞の特徴であるKRAS(G12C)を標的とする阻害剤ARS-853を添加した条件での3Dスクリーンで、ARS-853とCPD遺伝子欠損との合成致死性が、特に3Dにおいて、明確に示された。
スフェロイド参考資料
  • 細胞スフェロイド化技術の開発と細胞治療への応用. 草森 浩輔, 西川 元也, 高橋 有己, 高倉 喜信.  (特集“細胞治療とDDS -細胞を制御する、細胞で制御する-”編集:高倉喜信). Drug Delivery System 2013 年 28 巻 1 号 p. 45-53.