2020-05-05 Nature Communication論文およびそのFig. 1Fig. 2へのリンクを追加 (テキスト部分は初稿のまま)
2020-03-14 初稿 (bioRxiv 2020-03-12準拠)
[出典] "A human monoclonal antibody blocking SARS-CoV-2 infection" Wang C, Li W, Drabek D [..] Grosveld F, Bosch BJ. bioRxiv 2020-03-12. > Nat Commun 2020-05-04.

概要
  • オランダのUtrecht University, Erasmus MC, Harbour Antibodies BVならびにErasmus Medical CenterにドイツUniversity of Veterinary Medicineが加わった研究グループが、SARS-CoV-2 (以下, SARS2)およびSARS-CoV(以下, SARS1)を中和するヒト・モノクローナル抗体 (mAb)を報告した。
  • 双方に共通のエピトープを標的とするこの交差反応性mAbによるCOVID-19の予防と治療を期待できる。
コロナウイルスのスパイク(S)と抗体
  • コロナウイルスの中和抗体の第1の標的は、ウイルス表面で三量体を形成し、ウイルスの宿主細胞への侵入を担っている糖タンパク質"スパイク" (以下、Sタンパク質)である。
  • Sタンパク質は宿主細胞表面の受容体への結合を担うS1サブユニットと、ウイルスと宿主細胞の融合を担うS2サブユニットとで構成されており、S1サブユニットには、S1AからS1Dまでの4つのコア・ドメインが存在する。
  • 中和抗体の多くは、S1の中で受容体と相互作用する部位を標的として、S1の受容体への結合を阻害する。
  • SARS2 (strain Wuhan-Hu-1)と SARS1 (strain Urbani)のSタンパク質のアミノ酸配列の同一性は77.5%であり、また、構造は極めて似ている。
  • いずれも、コア・ドメインのS1Bを介して、ヒト細胞上のアンジオテンシン変換酵素2 (ACE2)に結合し、ウイルスは、この結合をきっかけとして、ヒト細胞に侵入可能な形へとコンフォーメーションを変える。
抗体作出
  • 研究グループは、mAbを含む51種類のSARS1-Sハイブリドーマ上清のELISA交差反応を見るところから、SARS2中和抗体の探索を始めた。このハイブリドーマは、ヒトの重鎖と軽鎖の可変領域とラットの定常領域を組み合わせたキメラ免疫グロブリンを帯びたH2L2トランスジェニック・マウスに由来する。
  • 51種類の上清の中で4種類がSARS2のS1サブユニットと交差反応し、そのうち1種類 (以下、47D11)が、SARS1-SとSARS2-Sの水疱性口内炎ウイルス (VSV)シュードタイプウイルス (以下、pseudo-VSV) [*] の感染を阻害した。そこで、キメラ47D11 H2L2抗体から完全ヒトIgG1抗体 (以下、47D11抗体)を作出・評価した [参照 Fig. 1: 47D11 neutralizes SARS-CoV and SARS-CoV-2]。
  • 47D11抗体は、全長Sタンパク質を発現しているSARS1とSARS2に結合し、SARS1-SとSARS2-Sのpseudo-VSVのVeroE6細胞への感染をそれぞれIC50値 0.06と0.08μg/mlで阻害し、また、感染VeroE6細胞をそれぞれIC50値 0.19と0.57μg/mlで中和した。
  • ELISAから、47D11抗体は、S1Bの受容体結合ドメインを標的することが示され、SARS1-SとSARS2-SのS1Bに対して、ELISAでのEC50値でそれぞれ0.02と0.03μg/mlの結合親和性を示した。47D11抗体はまた、外部ドメイン (以下、Secto)にも結合親和性を示し、SARS1-SectoとSARS2-Sectoに対して、EC50値でそれぞれ 0.018と0.15 μg/mlの結合親和性を示した。S1Bへの結合親和性がほぼ同じであるのに対してSectoへの結合親和性の差異が大きいことは、エピトープへのアクセサビリティーの違いに由来すると考えられる。
作用機序の考察
  • 注目すべきことに47D11抗体のS1Bへの結合は、S1Bの細胞表面に発現しているACE2への結合と競合せず、また、可溶性ACE2へのSectおよびS1Bの結合とも競合しなかった。この現象は、SARS1-Sへのpseudo-VSV感染だけを特異的に阻害する抗体が、SectoおよびS1BのACE2への結合を阻害したのと対照的である。[参照 Fig. 2: The neutralizing 47D11 mAb binds SARS1-S and SARS2-S RBD without eliminating receptor interaction]
  • トリプシンを利用した細胞融合アッセイから、47D11抗体が、SARS1-SとSARS2-Sの双方についてシンシチウム形成を阻害することまで判明したが、47D11抗体は、受容体結合自体による阻害とは異なる未知の分子機構により、SARS1-CoVとSARS-CoV-2に対する中和抗体として機能すると考えられる。
  • SARS2-S1Bの受容体結合ドメイン (RBD: 338-506残基)は、コア・ドメインと受容体結合サブドメイン (438-498残基)で構成されている。後者は、逆平行βシート構造のコア・ドメインからループ状に突き出して、受容体に直接結合する。
  • SARS1-S1BとSARS2-S1Bの間のコア・ドメインとサブ・ドメインのアミノ酸配列の同一性を比較した結果、それぞれ86.3%と46.7%となり、サブ・ドメイン間の差異が大きかったのに対して、S1B上のコアドメインの保存性が高いことが示された。これは、47D11抗体の交差反応性は、47D11抗体がS1Bの中でサブ・ドメインよりはコア・ドメインに結合することを示唆する。また、S1B上での47D11抗体の結合位置が、S1Bの受容体結合界面から遠位であることが、Sタンパク質とACE2の相互作用を阻害しないことと整合すると考えられた。
参考資料
  • [*] ウイルスベクターの開発とウイルスの感染機構解析への応用. 谷 英樹. ウイルス 2011;61(1):99-108 の図1参照。
  • 新型コロナと降圧薬に関する「患者不在」の議論 (忽那賢志) Y!ニュース 3/20(金) 11:04: SARS-CoV-2がヒト細胞表面のACE2を利用して感染する。一方で、降圧剤は、アンジオテンシン変換酵素阻害薬 (ACEI)/アンジオテンシン受容体拮抗薬 (ARB)によって、レニン-アンギオテンシン系を調節する機序に基づいている。このため、COVID-19治療と降圧剤服用の相関が議論されているが、降圧剤を忌避すべきエビデンスは無く、SARS-CoV-2に備えて降圧剤の服用を止める必要はないという欧州心臓病学会高血圧部会の意見を支持
  • crisp_bio 2020-02-22「新型コロナウイルスのスパイク糖タンパク質 (S)の構造、機能および抗原性」... さらに、SARS-CoV-2 S-MLVで免疫したマウスの血清が、 SARS-CoV S-MLVのVeroE6細胞への感染を完全に阻害し、SARS-CoV-2-MLVの感染をコントロールの~10%まで抑制することを見出した。
  • crisp_bio 2020-02-26 米国、新型コロナウイルスに対するmRNAワクチン第1相試験へ
  • crisp_bio 2020-03-07「新型コロナウイルスの感染は、ヒト細胞のACE2とTMPRSS2に依存し、慢性膵炎治療薬で阻害される」... 回復期のSARS患者は、SARS-CoVのスパイクに対する中和抗体を帯びている。SARS回復期の患者3名に由来する血清が、in vitroで、SARS-CoVの細胞侵入を阻害し、また、SARS-CoV-2の細胞侵入も、効率は低いが、阻害することを見出した。SARS-CoVのスパイクのサブユニットS1で免疫したウサギの血清も、SARS-CoVとSARS-CoV-2の細胞侵入を阻害した。
  • crisp_bio 2020-03-11「SARS-CoVのスパイク(S)のサブユニットS2に対するモノクローナル抗体が、SARS-CoV-2と交差反応した」