2020-05-15 米国からの報告: 血漿療法の安全性評価 - 重度・重篤な患者5,000名からのデータ
2020-05-04 新型コロナウイルス感染症の第一選択薬の列に、回復者の血清が加わった: "Convalescent serum lines up as first-choice treatment for coronavirus" Sheridan C. Nat Biotechnol 2020-05-01
2020-04-10
新型コロナに「安価ですぐ始められる」古典的な治療法を評価へ - カナダが回復期血漿を投与する世界最大規模の臨床試験を開始. 日経バイオテク 2020.04.10
米国FDA、"invesigatinal"回復期血漿輸血を推奨するガイダンスを発表 "Recommendations for Investigational COVID-19 Convalescent Plasma" FDA 2020-04-08
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出典 "The convalescent sera option for containing COVID-19" Casadevall A, Pirofski L. J Clin Invest 2020-03-13

概要
  • 開発が急がれているが、SARS-CoV-2に対するワクチンも、モノクローナル抗体 (mAbs)も、製剤も存在していない。
  • Johns Hopkins School of Public HealthとAlbert Einstein College of Medicineの研究者らは今回、1890年代からの血清療法 [1]の歴史的事例に基づいて、COVID-19から回復し免疫グロビンを帯びた血清を提供できる集団が存在すれば、この緊急時には、血清療法が有用であるとした。
受動的免疫療法
  • ワクチンを投与する能動的免疫療法は効果まで時を要し、その効用に個人差があるが、抗体を投与するなどの受動的免疫療法には、リスクを帯びた人々への即効性がある。
  • 受動的免疫療法の歴史は1890年代にまで遡り、抗生物質が登場する1940年代まで、感染症に対する唯一の療法であった。また、近年のSARS-CoV-1のようなコロナウイルスのアウトブレイクの際にも、回復期の患者に由来する中和抗体による受動的免疫療法が有効であった。
  • SARS-CoV-2に対する受動的免疫療法の作用機序として、ウイルスの中和の他に、抗体依存性細胞傷害作用 (ADCC)そしてまたは食作用 (phagocytosis)を想定できる。SARS-CoV-2の抗体はさまざまな手段で開発可能であるが、今すぐに利用できる抗体は、回復期の患者の血清に含まれる抗体でる。
  • 受動的免疫療法は、一般的に、治療より予防に有効であり、治療に利用する際には、症状があらわれてから短時間のうちに処方する必要があり、肺炎球菌性肺炎の場合は、3日以内と言われている。
  • 免疫グロブリンによる予防は、抗体のレベルと組成によるが、数週間から数ヶ月間継続、と言われている。
歴史的先例
  • 回復期血清療法は20世紀にはいって、さまざまな感染症に応用されてきたが、1918年のH1N1インフルエンザウイルスのパンデミックの際に、患者1,703名のコホートで血清療法によって死亡率が低下することが確認された。
  • 2009-2010年の重篤なH1N1インフルエンザウイルスのパンデミックの際には、回復期血清の抗体を介して、呼吸器系でのウイルス量とサイトカイン応答および死亡率が抑制された。
  • 2013年の西アフリカでのエボラ・エピデミックでは、回復期血清全体の投与が延命効果を示した。鳥インフルエンザウイルスのH5N1とH7N9の際も、少数例であるが、回復期血清を投与された患者が生存した。
  • ただし、歴史的先例は、多くの場合、抗体のレベルやウイルスの血清型のデータがないまま投与され、また、ランダム化またはブラインディングが行われていなかったため、近代的臨床試験の条件を満たしていなかった。
  • 21世紀に入って、2003年のSARS1 (重症急性呼吸器症候群), 2012年のMERS (中東呼吸器症候群)と、2回のコロナウイル・エピデミックが発生した。韓国でのMERSのアウトブレイクも含めて、いずれも少数例であるが、回復期血清の投与が効果を示したが、一方で、回復期血清に含まれる抗体のレベルと組成に効果が依存することを示唆する結果も見られた。COVID-19についても、詳細は不明であるが、中国での実施例が報道されている (245名に投与し、91名に改善の兆しあり) [2]。
受動的免疫療法の特長とリスク
  • 回復期血清の投与は、基礎疾患を抱えている者、医療従事者、COVID-19感染者との濃厚接触者などのハイリスクな人々を対象とする予防に有用である。
  • 受動的免疫予防は既に、B型肝炎ウイルスや狂犬病ウイルス暴露に対するそれぞれのヒト免疫グロブリン投与として臨床応用され、また、RSウイルスについても高リスクの幼児に施されている。
  • リスクは3種類である: (1)血清に含まれる望ましくない要素 (標的以外の病原体など)と血清構成要素に対する免疫応答 (血清病)の影響、および、肺疾患を伴うCOVID-19感染者における輸血関連急性肺障害が; (2) 抗体依存性感染増強 (antibody-dependent enhancement of infection:ADE); (3) 免疫応答の低下に伴う、コロナウイルスへの再感染や他のウイルス・病原菌への感染。
 著者らは、続いて、回復期血清による予防と治療を進める前提条件を論じた後、COVID-19パンデミックにおいては、各機関で回復期血清の緊急利用を進めるべきとした。

参考資料
  • crisp_bio 2020-02-30 新型コロナウイルス:ELISAによるSARS-CoV-2に対する抗体検出を実現
引用資料
  1. "血清療法の確立 - 救いたい命がある。救える方法は、まだない" TERUMOテルモ株式会社 ウェブサイト「医療の挑戦者たち 31」.
  2. "China puts 245 COVID-19 patients on convalescent plasma therapy" News release. Xinhua. February 28, 2020
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  • crisp_bio 2020-03-11「SARS-CoVのスパイク(S)のサブユニットS2に対するモノクローナル抗体が、SARS-CoV-2と交差反応した」
  • crisp_bio 2020-04-01 新型コロナウイルス:血漿療法、重篤な感染者2集団 (5名と10名)を救う
血清療法の模式図 (Eric Topolのツイートから引用)
更新履歴
2020-04-05 「回復者の血しょう投与試験もスタート」国立国際医療研究センター忽那賢志医師へのインタビュー記事. 岩永直子. BuzzFeed 2020-04-04 10:16
2020-04-01 crisp_bio記事参照: 回復した患者由来の血漿を移植することで重篤な感染者5名と10名の集団の症状改善
2020-03-26 血清療法に関するNature New 2020-03-23はこちら "How blood from coronavirus survivors might save lives": ニューヨークの研究者は、集中治療室から重篤な感染者を、回復期または回復した感染者からの抗体リッチな血漿によって救い出せるようになることを期待している。
2020-03-20 2020-03-19のmedRxiv投稿の書誌情報を、crisp_bio 2020-03-20記事へのリンクへ改訂
2020-03-19 medRxiv投稿"A serological assay to detect SARS-CoV-2 seroconversion in humans"の書誌情報など[参考]として[引用資料]の前に挿入; 2020-03-19 12:48に書誌情報の誤りを修正
2020-03-14 初稿