[出典] "Inhibition of SARS-CoV-2 infection (previously 2019-nCoV) by a highly potent pan-coronavirus fusion inhibitor targeting its spike protein that harbors a high capacity to mediate membrane fusion" Xia S, Liu M, Wang C, Xu W [..] Sun F, Shi Z, Zhu Y, Jiang S, Lu L. bioRxiv 2020-03-12 > Cell Res 2020-03-30;構造データ 6LXT - Structure of post fusion core of 2019-nCoV S2 subunit  (2.9 Å) [RCSB PDBのWebサイト画面キャプチャ下図参照]6LXT
 PDB ID 6LXTの構造データは2020年2月26日にPDBから公開されていたところ、2020-03-12に、その構造解析の論文が復旦大学, 武漢ウイルス研究所, 生物物理研究所 (北京), 薬理学・毒性学北京研究所などの研究グループによってbioRxivに投稿された。

細胞融合実験とX線構造解析
  • GISAIDデータベースから SARS-CoV-2 (BetaCoV 2019-2020) Sタンパク質配列全長(GenBank: QHD43416 )に基づいて実験を進めた。
  • SARS-CoV-2 Sタンパク質のヒトACE2 (hACE2)に対する結合親和性が、SARS-CoV Sタンパク質の10から20倍であること、また、他のコロナウイルスと異なり、S1/S2の界面にフーリン (furin)が認識可能な部位が存在することが、報告されていた。
  • SARS-CoV-2 Sタンパク質を発現させた293T細胞と、ヒトACE2受容体を発現させたACE2/293T細胞または内在ACEを発現している2Huh-7細胞との細胞融合アッセイにより、SARS-CoV-2のSタンパク質が融合細胞 (合胞体/syncytium)を形成することを見出した。SARS-CoVでは融合細胞が形成されなかった。また、Sタンパク質を発現していない293T細胞または、ACE2を発現していない293T細胞については、細胞融合は生じなかった。
  • Sタンパク質は、そのS1サブユニットの受容体結合ドメイン (RDB)を介して標的細胞上のACE2受容体に結合すると、プロテアーゼで開裂後、S2サブユニット内のHR1ドメインとHR2ドメインが6ヘリックスバンドル (6-HB)からなる融合コアを形成、ウイルスの標的細胞への近接、ウイルスと標的細胞との融合、ウイルスの標的細胞への侵入と続く。
  • 研究グループは、X線結晶構造解析により、6-HBの構造を2.9 Å分解能で決定した。SARS-CoV 6-HBおよびMERS-CoV 6-HBとのRMSDはそれぞれ0.36 Åと0.66 Åであったが、HR1ドメインにおいてSARS-CoVと異なる残基8種類を見出し、SARS-CoVに対してHR1ドメインとHR2の相互作用を強めると思われるアミノ酸残基を同定した。
細胞融合と感染を阻害するペプチド
  • 研究グループは先行研究で、ペプチドEK1が、HR1ドメインを標的とし、SARS-CoVとMERS-CoVおよび3種類のSRS関連CoVs (SARSr-CoVs)の感染を阻害することを同定していた。
  • 今回、ペプチドの脂質化の効果をみるために、EK1のC末端にコレステロール (Chol)およびパルミチン酸 (Palm)を柔軟なリンカーを介して共有結合させたEK1CとEK1Pを作出し評価した結果、いずれも、 2.5 μMにて細胞融合を完全に阻害することを見出し、リンカーの長さを替えて、細胞融合実験と偽型ウイルス (pseudotype virus)感染実験で評価した結果、EK1C4に至った (EK1に比較して、1.3 nMと15.8 nMでのIC50値で、それぞれ241倍と149倍)。
  • EK1C4は、SARS-CoV-2だけでなくSARS-CoV, MERS-CoVとHCoV-OC43ならびにHCoV-229EとHCoV-NL63に対しても強力な阻害能を示した。
  • In vitroでのSARS-CoV-2を含む一連のコロナウイルスの感染実験でもEK1C4は阻害能を発揮した。またin vivo実験では、HCoV-OC43への暴露の前後にEK1C4を鼻内投与することで、マウスをSARS-CoV-2感染から保護することを確認した。