2020-05-09 SARS-CoV-2出現へのセンザンコウへの関与を示唆する第2のNature論文を追加
2020-03-27
Francis Collins NIH所長, "The proximal origin of SARS-CoV-2"論文を引用し"COVID-19は人為的産物ではない"とブログ:  "Genomic Study Points to Natural Origin of COVID-19" 2020-03-26.
2020-03-26 初稿

2020-05-09 SARS-CoV-2に極めて近いコロナウイルスをマレーセンザンコウから分離
[出典] "Isolation of SARS-CoV-2-related coronavirus from Malayan pangolins" Xiao K, Zhai J [..] Chen W, Xiao L, Shen Y. Nature 2020-05-07. < bioRxiv 2020-02-20
  • 華南農業大学と広州動物園を主とする研究グループがセンザンコウから分離したコロナウイルス (CoV)の中に、そのE, N, N およびS遺伝子に対応するアミノ酸配列が、SARS-CoV-2の各遺伝子からのアミノ酸と100%, 98.6%, 97.8% および90.7%の同一性を示すCoVを発見した (以下、Pangolin-CoV)。
  • 注目すべきことに、ヒト細胞表面のACE2受容体に結合するSタンパク質の結合ドメインのアミノ酸配列の違いは僅かに1アミノ酸であった。また、そのアミノ酸は、ACE2への結合などに関与しないことも明らかにした。
  • 比較ゲノム解析から、SARS-CoV-2は、よく知られているコウモリ由来のCoV, Bat-CoV-Ra TG13様ウイルスと、Pangolin-CoV様ウイルスの間の組換によって発生したと推定した。
  • 比較ゲノム解析から、SARS-CoV-2は、よく知られているコウモリ由来のCoV, Bat-CoV-Ra TG13様ウイルスと、Pangolin-CoV様ウイルスの間の組換によって発生したと推定した。
  • Pangolin-CoVは、マレーセンザンコウ25頭のうち17頭に見られ、感染している個体には肺の損傷が見られた。また、Pangolin-CoVに対する抗体はSARS-CoV-2のSタンパク質と交差反応した。
  • 以上、センザンコウが、コウモリからヒトへのCoV感染の中間宿主であったことが示唆された。
2020-03-26 野生動物センザンコウからSARS-CoV-2関連コロナウイルスを検出
[出典] "Identifying SARS-CoV-2 related coronaviruses in Malayan pangolins
Tommy Tsan-Yuk Lam, Yi-Gang Tong [..] Yan-Ling Hu, Yi Guan. Nature 2020-03-26 (Accelerated Article Preview Published). 
 汕頭大学, 香港大学, 北京化工大学, 広西医科大学ならびにシドニー大学の研究グループは、中国広西チワン族自治区税関と広州市の税関で押収された密輸センザンコウ (Manis javanica)由来サンプルが帯びていたコロナウイルスのゲノム配列 (完全またはほぼ完全)とSARS-CoV-2ゲノム配列の類似度が85.5-92.4%であることを見出した。
 また、系統解析の結果、センザンコウ由来のコロナウイルスの配列は、自治区由来も広州由来もSARS-CoVのクラスター (ヒトSARS-CoVとコウモリSRAS様 CoV)ではなく、SARS-CoV-2のクラスターに属した。
 なかでも、広州市税関で押収されたセンザコウ由来のコロナウイルスは、宿主細胞の受容体結合ドメイン(RBD)のアミノ酸配列がSARS-CoV-2のRBDのアミノ酸配列に極めて類似し(類似度 97.4%)、その他のゲノム領域はコウモリのゲノムに類似していた。
 このRBDの特徴は、受容体のACE2の配列類似度が、ヒトとコウモリとの間よりも、ヒトとセンザンコウの間の方が近いということと整合している。また、密輸が行われた自治区と広州市でSARS-CoV-2感染が繰り返し発生したことも考慮にいれると、センザンコウからヒトへの感染が始まったこと、さらには、センザンコウ[下図参照]がコウモリとヒトとの間の中間宿主の可能性がある。2020-03-27 7.42.13

2020-03-24
初稿
[出典] CORRESPONDENCE "The proximal origin of SARS-CoV-2" Andersen KG, Rambaut A, Lipkin WI, Holmes EC, Garry RF. Nat Med 2020-03-17

 スクリプス研, エディンバラ大, コロンビア大・公衆衛生大学院, シドニー大, ならびにテュレーン大の研究グループが、新型コロナウイルス (SARS-CoV-2)のゲノムとこれまでに知られているヒト・コロナウイルス 計7種類を比較し[*]、新型コロナウイルス・ゲノムの特徴を論じた。次いで、新型コロナウイルスの起源も論じ、不注意か意図的かのいかんに関わらずいずれにしても人為的病原体ではないと結論した。
[*] 
αCoV: HCoV-NL63; HCoV-229E
βCoV lineage A: HCoV-OC43; HCoV-HKU1
βCoV lineage B: SARS-CoV; SARS-CoV-2
βCoV lineage C: MERS-CoV
症状が軽い感染症 (いわゆる風邪)を引き起こすヒト・コロナウイルスの名称にはHCoVが使われ、重篤な感染症 (重症急性呼吸器症候群, 中東呼吸器症候群、および今回のCOVID-19)を引き起こす病原体には独自のウイルス名が付されている。

新型コロナウイルス・ゲノムの特徴

[crisp_bio注] コロナウイルスのスパイク (S)タンパク質を介したヒト細胞への付着から侵入の機序について、crisp_bio 2020-03-07 "新型コロナウイルスの感染は、ヒト細胞のACE2とTMPRSS2に依存し、慢性膵炎治療薬で阻害される" の[crisp_bio補足]の項を参照

 コロナウイルスのαCoVとβCoVの比較から新型コロナウイルスの特徴2種類が見えてきた:
  1. 構造解析と生化学実験によると、ヒト細胞表面上の受容体ACE2に高い結合親和性を帯びているように見られる。
  2. SRAS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質は、ヒト細胞のプロテアーゼによってサブユニットS1とS2 [*]に開裂される点は他のヒトCoVと共通であるが、S1とS2の塩基/アミノ酸配列が特徴的である。
 [*] SARS-CoVとMERS-CoVのS1サブユニットとS2サブユニットについて、Wikipedia "Coronavirus"から引用した下図参照]
2020-03-24 15.37.00 
受容体結合ドメイン(RBD)の変異 [SARS-CoV-2の特徴について下図参照]。
  • SARS-CoV S1とSARS-CoV-2 S1のRBD内では6種類のアミノ酸がACE2受容体の結合に決定的な役割を担っているが、それぞれ、"Y442, L472, N479, D480, T487 と Y491"のセットであり、SARS-CoV-2では "L455, F486, Q493, S494, N501 および Y505"のセットであり、共通するのは、6種類のアミノ酸のうち1種類であった。
  • SARS-CoV-2のRBDは、構造解析結果と生化学実験から、ヒトACE2と相同性が高いフェレット、ネコその他のACE2と結合親和性が高いと見られた。
  • 一方で、コンピュータ・シミュレーションによると[*]、SARS-CoV-2の一連の特徴的変異はRBDのACE2への結合親和性を最適化する変異ではない (新たな変異導入による最適化が可能)ことから、人為的設計の結果ではなく自然選択の結果であることが示唆される。
    [*] "Receptor Recognition by the Novel Coronavirus from Wuhan: an Analysis Based on Decade-Long Structural Studies of SARS Coronavirus" Wan Y, Shang J, Graham R, Baric RS, Li F. J Virol 2020-03-17.
    2020-03-24 15.37.40
Sタンパク質の開裂部位の変異 - 挿入配列とO-結合型グリカン[上図右側参照]
  • Sタンパク質のS1サブユニットとS2サブユニットの開裂部位に、他のCoVに対して、独特な塩基性の"RRAR"配列、フーリン開裂配列[Arg-X-X-Arg]配列、が存在し、カルシウム依存セリンエンドプロテアーゼであるフーリン (FURIN)などのヒト細胞内在プロテアーゼによって効率的に開裂され、ひいては、宿主細胞の範囲を広げまた宿主細胞への感染能を高めることが示唆された。
  • さらに、"RRAR"の5'末端側にプロリン (P)が隣接し、他のCoVに対して、開裂部位に4アミノ酸"PRRA" (12塩基)が挿入された配列になっている。このプロリンに誘導されるアミノ酸鎖のターンが、開裂サイトの左側2ヶ所 (S673とT678) および 右側1ヶ所 (S686)にO-結合型グリカンを結合サイトをもたらすことが示唆された。
  • これまでの実験研究から、SARS-CoVのS1-S2開裂部位ににフーリン開裂配列を挿入することで細胞融合が亢進し (宿主細胞への侵入には影響しない)、また、MERS-CoV Sの開裂の効率化が、コウモリのMERS様コロナウルスにヒト細胞への感染能を付与することが、報告されている。さらに、鳥インフルエンザウイルスでは、密集したニワトリ集団の間での高頻度な複製と伝播を経てマグルチニン (HA)に塩基性配列が挿入されることで、毒性が高まることが報告されている。このHAへの塩基性配列挿入は、細胞培養や動物間を介しての伝播でも発生した。
  • こうした知見がフーリン開裂配列挿入に関して蓄積されてきたが、RRARの機能の特定には、RRARとウイルスの感染性ならびに病原性との相関を解析していくことが重要である。
  • O-結合型グリカンの機能は投稿時には不明であるが、SARS-CoV-2 Sのエピトープや鍵となる残基をシールドする"ムチン様ドメイン"を形成する可能性を帯びている。"ムチン様ドメイン"によって免疫回避を実現するウイルスは存在しているが、いずれにしても、実験での検証が必要である。
新型コロナウイルス・ゲノムの起源
 前述のSARS-CoV-2の特徴に基づいて、SARS-CoV-2の起源について3種類の仮説[*] を論じ、人為的産物との論を否定するに至った:
  1. ヒトに感染する以前の宿主動物における自然選択の結果:RaTG13コウモリCoVゲノムと~96%一致しているがRBDに注目するとセンザンコウCoVのRDBと特徴的な変異を共有シている。一方で、フーリン開裂配列はコウモリCoVにもセンザンコウCoVにも見られず、SARS-CoV-2の直近の祖先や中間宿主の存在については確定できない。
  2. 宿主動物内のウイルスがヒトへの感染能を獲得し、その後の、ヒト-ヒト感染の繰り返しの中での自然選択の結果:野生動物CoVが初めてヒトにジャンプした後のヒト・ヒト感染の間にフーリン開裂配列が挿入されたシナリオも考えられる。
  3. 宿主動物由来のウイルスを研究室内で培養・継代している間の自然選択に続く研究室からの漏出:SARS-CoVについて行われた継代実験からSARS-CoV-2のRBD変異が研究室内で継代する中で生じたことを否定はできないが、SARS-CoVなどから出発して、特徴的な変異誘発とフーリン開裂配列の挿入、さらに、O-結合グリカン生成が、継代実験の間に発生することは、極めて稀と考えざるを得ない。特徴的な変異がACE2結合に最適化されていないことと併せて、継代実験の過程または人為的な設計による産物ではなく1または2のシナリオによる産物であることが、示唆される。