[出典] "Pooled Knockin Targeting for Genome Engineering of Cellular Immunotherapies" Roth TL, Li PJ, Blaeschke F, Nies JF, Apathy R, Mowery C [..] Marson A. Cell 2020-04-16

背景
  • 癌患者から分離したT細胞の細胞膜上に発現している抗原受容体 (T cell receptor: TCR)の遺伝子をex vivoで改変し、抗腫瘍性を高めた上で、患者自身に移植する養子細胞移植 (adoptive cell transfer: ACT)は、癌免疫療法として1990年代第から研究開発が進み、現在では、臨床応用され一部の癌に著効を示し、適応範囲を拡大する試みが続いているが、固形腫瘍への適用は進んでいない。
  • 一方で、2013年にCRISPR-Casシステムによるヒト細胞のゲノム編集が可能なことが報告されると、時を置かずに癌免疫療法における遺伝子改変への応用研究が始まった。
  • 遺伝子改変したT細胞には、腫瘍細胞の抗原を認識し、結合する機能と共に、固形腫瘍の組織内および腫瘍微小環境において、その機能と抗腫瘍性を失わないことが求められる。
  • T細胞は、固形腫瘍に伴う抑制性サイトカインの一種であるトランスフォーミング増殖因子β (TGF-β)、制御性T細胞 (Treg)、骨髄由来免疫抑制細胞 (MDSCs)、腫瘍組織内の樹状細胞と間質細胞集団などによる抑制や、過剰に高密度な抗原の存在や抗原への暴露に伴う疲弊に抗することが求められる。このため、固形腫瘍に奏功する遺伝子改変を発見するためには、ハイスループットなスクリーン法が必要である。
成果
  • UCSFの研究グループは今回、CRISPR-Cas9による相同組み換え修復 (HDR)過程を介したノックインにあたり、HDR用の非ウイルス性テンプレートに、テンプレート識別用のバーコードを付与し、テンプレートの追跡を可能とする手法を開発した。これによって、同一遺伝子座に対して、多様な一連のテンプレート群を同時並行ノックインし解析するプール型ノックイン (pooled knockin, PoKI)・スクリーン (以下、PoKIスクリーン)法を実現した [Figure 5 PoKI-Seq Combines Pooled Knockin Screening with Single-Cell RNA Sequencing参照 ]。
  • 研究グループは、このPoKIスクリーンにscRNA-seqを組み合わせて (PoLI-seqと命名)、ヒト初代T細胞を対象として、in vitroでの単一細胞ジェノタイピング (細胞の状態と遺伝子発現プロファイル)と、ヒト固形腫瘍移植NSGマウスでの腫瘍浸潤T細胞のレベルの測定を実現した。
  • また、ex vivoにおける外部刺激に対する応答性を見る機能スクリーニングも実現した。こうして、T細胞の適応性 (fitness)を高めるテンプレートをハイスループットで探索した (原論文Figure 3 参照)。
  • 研究グループは、in vitro/in vivo PoKI-seqにより、固形腫瘍のクリアランスを亢進する新奇なキメラTCRとして、トランスフォーミング増殖因子β (TGF-β)R2-41BB、を見出した。