[出典] "Identification of calcium and integrin-binding protein 1 as a novel regulator of production of amyloid β peptide using CRISPR/Cas9-based screening system" 邱 詠玟/Chiu YW, 堀 由起子/Hori Y [..] 富田 泰輔/Tomita T. FASEB J 2020-04-19
[注] CIB1 (calcium and integrin binding protein 1); Aβペプチド (アミロイドβペプチド); AD (アルツハイマー病)

 アミロイド・カスケード仮説によれば、Aβペプチドの脳内での凝集・蓄積がアルツハイマー発症の初期過程である。東大と新潟大の研究グループは今回、マウス神経芽細胞腫N2a細胞を対象とするゲノムワイドCRISPR/Cas9 KOスクリーニングから始まる一連の実験により、Cib1遺伝子が、γセクレターゼによるAβペプチド産生を抑制することを特定した。

Cib1のノックダウンとノックアウト実験
  • ゲノムワイドスクリーニングの結果、Aβペプチド抑制遺伝子として同定したCib1を改めてCRISPR/Cas9によりKOしたN2aマウス細胞にて、Aβレベル上昇を再確認し、また、Cib1過剰発現によりCib1 KO N2aのAβレベルがナイーブN2a細胞と同レベルへと変化することも確認した。
  • Cib1 KO細胞ではAβ42の細胞内レベルと共にAβ42/Aβ40比も上昇した。
  • Cib1のsiRNAによるノックダウン (KD)により、N2aマウス細胞に加えて、内在APPを発現しているヒト神経芽細胞腫由来BE(2)C細胞と蛍光標識APPを発現させたヒト胎児腎由来HEK293においても、Aβ40とAβ42のレベルが顕著に上昇した。
  • 一方で、KOとKDは、APP, BACE1およびγ-セクレターゼの構成分子 (PS1, PS2, Nct)のレベルおよびBACE1によるAPP切断産物 (sAPPβ)のレベルに影響を与えなかった。
CIB1とγ-セクレターゼの相互作用 - 免疫共沈降実験と細胞表面ビオチン化アッセイ
  • CIB1は、細胞膜においても、細胞内においてもγ-セクレターゼに結合し、細胞膜表面でのγ-セクレターゼ発現を維持する。
  • CIB1 KD細胞では、活性なγ-セクレターゼの構成分子である成熟型Nctの膜局在が減少し (γ-セクレターゼの膜移行が抑制され)、γ-セクレターゼが細胞内に留まる傾向を強め、γ-セクレターゼによるAβ産生が亢進することが示唆された。
  • CIB1がγ-セクレターゼの膜移行を制御する機構分子機構、またなによりもAD病においてCIB1が抑制される分子機構の解明は、今後の課題である。
AD患者由来のデータ解析
  • ヒトAD患者の死後脳サンプルに由来するscRNA-seqのデータ (Nature, 2019)を解析した。
  • AD後期にはCIB1 mRNAのレベルが僅かに上昇していたが、AD発症の初期段階で興奮性ニューロンにおけるCIB1の発現量がコントロールから大きく減少しており、マウス細胞とヒト細胞から得られた結果と整合する結果となった。