2020-04-30 初稿; 2020-08-09 'CARMEN-Cas13'と判定可能なウイルスの種類数を組み込んだタイトルへ改訂
[出典] "Massively multiplexed nucleic acid detection using Cas13" Ackerman CM, Myhrvold C [..] Blainey PC, Sabeti PC. Nature 2020-04-28. (迅速公開版)

 病原体の圧倒的多数が検出されないまま地球規模で循環することが、保健衛生システムを弱体化させ、アウトブレイクに対する準備と即応を不可能にしている。こうした病原体がもたらす新興・再興感染症に備えて、これから、日常的なサーベイランスと包括的な診断を可能とする社会システムを構築していくことになる。

 この社会システムの実現には、膨大な検体から種々の病原体を同時に検出するスケーラブルな手法が求められるが、Broad InstituteにCDCが加わった研究グループが今回、Combinatorial Arrayed Reactions for Multiplexed Evaluation of Nucleic acids (CARMEN)を開発することでそれに応えた。

 研究グループは、ナノ化と自己組織化を活かした最近のマイクロフルイディクス技術 (原論文の参考文献18-22参照) に基づくCARMENに、CRISPR-LwaCas13aのRNAコラテラル切断活性に拠るSHERLOCK技術を組み合わせたCARMEN-Cas13に拠って、単一のマイクロアレイで、4,500種類を超えるcrRANと標的核酸のペアからの蛍光を介して、病原体の有無と種類を超高感度で検出可能とした (左下に、背景、CARMEN-Cas13の概要図、および、ジカウイルスをモデルとしアトモル濃度での検出例をまとめたFig. 1引用; 右下に、CARMEN-Cas13のワークフローをExtended Data Fig. 1から引用)。
CARMEN-Cas13 CARMEN-13 EF1
  • CARMEN-Cas13によって、2018年10月24日時点で10件以上のゲノム配列が公開されているヒトに感染するウイルス169種類の同時診断が可能なことを示した。
  • また、本論文の投稿が査読されている間に発生したCOVID-19アウトブレイクの原因ウイルスSARS-CoV-2についても、極めて短期間で公開されたゲノム配列に基づいて検出用のcrRNAを設計することで、コロナウイルスを対象とするパネルに組み込み、400件を超えるサンプルの同時診断が可能なことを、実証した。
  • さらに、CARMEN-Cas13によって、A型インフルエンザウイルスの全てのサブタイプの識別や、数十種類のHIV薬剤耐性株についても、多重同時判定を実現した。
 CARMENは、多重化、ハイスループット、および、反応装置のマイクロ化に伴う試薬コストの低減の特徴から、スケーラブルな多重・病原体検出システムとして実用化可能である(コストの積算表をExtended Data Table 1から以下に引用)。Cost

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