[出典]  Washington University School of MedicineのJ. R. Millmanらからの2月発行Nature Biotechnology論文と4月発行Science Translational Medicine論文

1. ヒト多能性幹細胞 (hPSCs)から膵β細胞を分化させるまで
[出典] "Targeting the cytoskeleton to direct pancreatic differentiation of human pluripotent stem cells" Hogrebe NJ [..] Millman JR. Nat Biotechnol 2020-02-24.
  • 膵臓は、内胚葉上皮細胞の一部に由来する膵前駆細胞から膵内分泌前駆細胞への分化に始まる多段階の分化過程を経て膵β細胞に至ることで、形成される。J. R. MillmanらWashUの研究グループは、バルクおよび単一細胞のRNA-seqから、アクチン重合が転写因子neurogenin-3 (Ngn3) による膵前駆細胞から膵内分
  • 泌前駆細胞への分化を阻害することを見出し、化合物 (latrunculin A)によりアクチンを脱重合することで、ヒト多能性幹細胞 (HPSC)から膵β細胞 (human pluripotent stem-cell-derived β, SC-β)を誘導する2次元プロトコールを確立した [hPSCからSC-β細胞までの分化過程について原論文Fig. 1-a 参照]。
  • 4種類のhPSCから分化させたSC-β細胞は、一過性の第1相と持続性の第2相のグルコース刺激性インスリン分泌性を示した。
  • SC-β細胞のランゲルハンス島サイズの凝集体を移植した糖尿病モデルマウスでは、重篤な糖尿病症状が急速に改善され観察期間の9ヶ月間正常血糖が維持された。

2. 患者由来hPSCsにおけるウォルフラム症候群病因変異修復の効果
[出典] "Gene-edited human stem cell–derived β cells from a patient with monogenic diabetes reverse preexisting diabetes in mice" Maxwell KG [..] Urano F, Millman JR. Sci Transl Med. 2020-04-22.
  • ウォルフラム症候群はWFS1遺伝子の変異が病因で発生する単一遺伝子疾患であり (*)、幼年期から思春期に糖尿病を発症し、インスリン注射による対症療法しか存在しない (* WFS1遺伝子の他に、WFS2CISD2遺伝子の変異を病因とするウォルフラム症候群も発見されている)。
  • J. R. Millmanらは、ウォルフラム症候群患者の皮膚線維芽細胞由来のiPSCsにおいて、CRISPR/Cas9遺伝子編集技術により病因変異を修復した上で、前項1の手法で膵β細胞へ分化させ、病因変異を修復した膵β細胞と、修復しなかった膵β細胞を、糖尿病モデルマウスへ移植し、その作用を比較した。
  • 前者を移植後、モデルマウスにおいてグルコース刺激性インスリン分泌が始まり、高血糖が改善され、観察期間の6ヶ月にわたり正常な血糖値が維持された。一方で、後者もインスリンを分泌したが低レベルであり、症状を改善するには至らなかった。
  • 今回は、単一遺伝子性の糖尿病治療法として、幹細胞技術とCRISR/Cas9技術による自家移植療法の可能性を示したにとどまるが、より複雑な病因で発症する糖尿病についてもこの手法を検証していく価値がある。