[出典] "CRISPR-based gene editing enables FOXP3 gene repair in IPEX patient cells" Goodwin M, Lee E [..] Bacchetta R. Sci Adv 2020-05-06

背景
  • IPEX (Immune dysregulation, Polyendocrinopathy, Enteropathy, X-linked)症候群 (KEGG参照)は、ヒト細胞における免疫調節を司るFOXP3遺伝子の変異によって引き起こされる一遺伝子性疾患であり、療法が免疫抑制療法と骨髄移植に限られている。
  • FOXP3の変異はこれまでに70種類以上が同定されている。
成果概要
  • Stanford University School of MedicineとSan Raffaele Scientific Instituteを主とする米・伊・アイルランド・イスラエルの研究グループは今回、造血幹細胞・前駆細胞 (hematopoietic stem and progenitor, HSPC), 制御性T細胞 (以下, Treg細胞)およびCD4陽性エフェクターT細胞 (以下, Teff細胞)において、CRISPR-Cas9によるHDRを介してFOXP3 cDNAをノックインすることで、FOXP3遺伝子の病因変異を修復し、細胞のコンテクストに適合するFOXP3タンパク質の発現を実現した。
IPEX症候群の治療戦略
  • Treg細胞はFOXP3の恒常的発現に依存し、Teff細胞ではFOXP3の一時的発現に基づいて、増殖、サイトカイン産生およびTCRシグナル伝達が調節される。Teff細胞とTreg細胞双方の機能不全を介して、IPEX症候群に至るとされている。
  • 研究グループは先行研究で、FOXP3遺伝子の全長アイソフォームのcDNAコピーをレンチウイルスで送達し恒常的に発現させることで (LV-FOXP3)、IPEX患者由来のCD4陽性T細胞を活性なTreg様サプレッサー細胞へ転換することに成功していた。しかし、この手法はTeff細胞の活性化には展開できず、また、FOXP3の過剰発現が幹細胞の増殖と分化を障害することからHSPCの長期間にわたる増殖にも展開できない。
  • IPEX症候群の遺伝子治療にあたっては、野生型のFOXP3を内在遺伝子座に精確にデリバーし、かつ、細胞のコンテクストに応じてFOXP3の発現を調節する必要がある。
CRISPR-Cas9/HiFiCas9システムにより戦略を実現
  • モデル細胞株とIPEX症候群患者由来細胞においてCRISPR-Cas9 RNPのヌクレオフェクションとFOXP3 cDNAのrAAV6デリバリを介して遺伝子ターゲッティングを実現した [遺伝子ターゲッティングの概要についてFig.1とFig. 5引用下図参照]。
    Fig.1 Fig. 5
    細胞に内在するFOXP3プロモータを利用することで、遺伝子ターゲッティングした細胞におけるFOXP3タンパク質の発現を細胞特異的に調節することに成功した。すなわち、FOXP3タンパク質の発現は、HSPCではみられず、Teff細胞では一時的であり、Treg細胞では恒常的であった。
  • 遺伝子ターゲッティングしたHSPCはin vitroでも、免疫不全マウスin vivoでも分化能を維持した。遺伝子ターゲッティングしたTeff細胞は、野生型と同等な増殖能とサイトカイン産生能を維持した。また、遺伝子ターゲッティングしたTreg細胞は、本来のフェノタイプを維持し、野生型レベルより低いが十分なT細胞機能抑制能を維持した。
 本手法により、自家造血幹細胞移植と養子細胞移植 (adoptive cell transfer,ACT)によるIPEX症候群の治療の可能性が示された。また、単一遺伝子性疾患はこれまでに350種類以上報告され、DNAシーケンシングの技術進歩と、遺伝子スクリーニングの広がりとともに増え続けているところ、今回の手法は、それらに対する遺伝子治療の可能性を示した。