2021-09-25 PNAS 論文の書誌情報を追記し,PNAS 論文のFig. 1を挿入図として引用
2020-05-30 初稿 
[出典] "Electric-field-driven microfluidics for rapid CRISPR-based diagnostics and its application to detection of SARS-CoV-2" Ramachandran A [..] Santiago JG. (bioRxiv 2020-05-22).Proc Natl Acad Sci U S A. 2020-11-24. https://doi.org/10.1073/pnas.2010254117

背景 - 2つの技術

 CRISPR-Casヌクレアーゼの特徴を活かしたDETECR とSHERLOCKによって、SARS-CoV-2由来RNAの迅速かつ超高感度な検出が可能なことが実証 されたが、検体からのRNA抽出と精製が、スループットのボトルネックになっており、この検体前処理の高速化とそれとの一体化が進められている [1-2]:

 ITP (isotachophoresis/等速電気泳動)法は電場勾配と2種類のバッファーを組み合わせることで、血液、尿、細胞溶解液などからの迅速核酸抽出やDNAおよびRNAのハイブリダイゼーション促進を実現した技術である(REVIEW J. Chromatogr. A, 2014)。今回論文の責任著者のJ. G. Santiagoも、2012年に"On-chip Isotachophoresis for Separation of Ions and Purification of Nucleic Acids"をJ. Vis. Expに発表している。

成果概要

 Stanford Universityの研究グループは今回、ITP法をCas12aのコラテル活性反応の加速にも利用することでITP-CRISPR法を開発した。2021-09-25 17.19.56すなわち、LbCas12a-gRNA、蛍光分子と失活分子のペアを帯びたレポータssDNA、および、RT-LAMP法でウイルスRNAから変換したcDNAをマイクロフルイディスク中で集中させることで、反応を促進した [ITP-CRISPRのワークフローなどPNAS 論文のFig. 1引用右図参照]。

 ITP-CRISPRの検体 (鼻腔拭い液/血液/喀痰/唾液)採取からのワークフローは以下の通り:
  1. 検体と溶解バッファー注入しインキュベーション(ペルチェ効果で62℃)  [1分]
  2. ITPによる自動RNA抽出 [3分]
  3. RT-LAMP (ペルチェ効果で62℃)によるRNA増幅 [20分]:
    SARS-CoV-2 N遺伝子とE遺伝子およびヒトRNase P遺伝子
  4. ITP促進CRISPRによる標的cDNA検出 [3分]:
    検出限界は10 copies/μL
    (参考:2時間のqPCR法の検出限界1 copy/μL)
今後の展開
  • ITP-CRISPRの全行程を一体化したマイクロフルイディスクデバイスを構築可能である。
  • ITP-CRISPRは、標的核酸増幅用プライマーとgRNAsを設計するだけで、任意の病原体の検出に展開可能である。