2020-10-23 TUMの研究成果がScience誌論文となったことから、出典にその書誌事項を追加し、嗅上皮細胞におけるニューロピリンの発現を示す病理画像を追加; 「CRISPRスクリーンによる宿主因子同定」論文紹介記事へのリンクを追加 [参考資料の9]
2020-10-22 U Bristolの研究成果がScience誌論文となったことから、出典にその書誌事項を追加し、テキストに構造情報へのリンクやモデル図などを追加
2020-06-15 bioRxiv準拠初版,
出典
- [U Bristol論文] "Neuropilin-1 is a host factor for SARS-CoV-2 infection" Daly JL, Simonetti B, Antón-Plágaro C, Williamson MK [..] Cullen PJ, Yamauchi Y. bioRxiv 2020-06-05. > Science 2020-10-22.
- [TUM論文] "Neuropilin-1 facilitates SARS-CoV-2 cell entry and provides a possible pathway into the central nervous system " Cantuti-Castelvetri L, Ojha R, Pedro LD, Djannatian M, Franz J, Kuivanen S [..] Balistreri G, Simons M. bioRxiv v1 2020-06-07/v2 2020-06-10. > Science 2020-10-20.
- 新型コロナウイルス は、エンベロープから突出したスパイク糖タンパク質(以下、Sタンパク質)を介してヒト細胞膜上の受容体アンジオテンシン変換酵素2 (ACE2)に結合し、Sタンパク質がヒト細胞膜上のセリンプロテアーゼTMPRSS2によってS1サブユニットとS2サブユニットに開裂され、S2サブユニットを介してヒト細胞に侵入するとされ、TMPRSS2を標的とする薬剤が注目を集めている。 (右図は今回引用論文ではなく、TMPRSS2関連論文のNEWS RELEASEから引用 [参考資料 1])
- 一方で、SARS-CoV-2のSタンパク質には、他のSARS関連CoVと異なり、S1/S2サブユニットの境界に4残基が加わり、TMPRSS2とは別のヒト細胞内在セリンプロテアーゼfurin (フーリン)の標的となる切断モチーフが存在していることが早くから注目を集め [2-5]、実際に、Sタンパク質がフーリンによってS1サブユニットとS2サブユニットに開裂されることも報告された [6]。
成果
- University of Bristolを主とする研究グループとTechnical University Munich/German Center for Neurodegenerative Diseasesを主とする研究グループが互いに独立に、フーリンの切断によって露出するSタンパク質S1ユニットのC末端配列Arg-Arg-Ala-Arg (RRAR)がヒト細胞表面に位置するニューロピリン1 (NRP1)に結合することで、SARS-CoV-Rの細胞への侵入が進行するモデルを提示した。RRARは、細胞への侵入ルール (CendR: C-end Rule [7])を満たすCendRモチーフそのものである。
- U Bristol論文では、部位特異的変異誘発, 抗-NRP1モノクローナル抗体*, NRP1(b1ドメイン)阻害剤EG00229 (PDB 3I97)*, およびshRNA**による阻害実験に加えて、X線結晶構造解析*** (PDB ID 7JJC)を介して、S1上のCendRモチーフがNRP1のb1ドメインに結合するモデルを提示した (Fig. S5引用右図参照)。
[*] Figure 3参照; [**] Figure 1-D/E/F参照
[***] Crystal structure of neuropilin-1 b1 domain in complex with SARS-CoV-2 S1 C-end rule (CendR) peptide (分解能 2.36 Å) - TUM論文は、NRP1によるSARS-CoV-2の感染性亢進とともに、NRP1のb1/b2ドメインに対するモノクローナル抗体が感染を阻害することを示し、SARS-CoV-2の感染性とACE2, TMPRSS2およびNRP1の単独および組合せとの相関[*]や、NRP1の組織分布とSARS-CoV-2の組織向性との相関を詳細に分析した。また、COVID-19患者の剖検検体において、SARS-CoV-2が感染している嗅上皮細胞においてNPR1が高発現していることも確認した [Fig. 4引用右図参照]。
[注] 興味深いことに、SARS-CoV-2レベルが高い場合、ACE2を含まないTMPRSS2とNRP1の組合せでも、TMPRSS2とACE2の組合せに比べて効率は半減するが、SARS-CoV-2感染が進行する。
参考資料
- [2020-03-30更新] 新型コロナウイルスの感染は、ヒト細胞のACE2とTMPRSS2に依存し、慢性膵炎治療薬で阻害される; NEWS RELEASE "Preventing spread of SARS coronavirus-2 in humans - Göttingen infection researchers identify potential drug" EurekAlert! 2020-03-05.
- [20200509更新] 新型コロナウイルス・ゲノムにみられる際立った特徴とセンザンコウ由来CoVのデータから、人為説を否定
- [2020-03-11改訂] 新型コロナウイルスのスパイク糖タンパク質 (S)の構造、機能および抗原性
- 2020-03-28 新型コロナウイルス:スパイクのサブユニットS2の構造と、細胞融合・感染を阻害する脂質化ペプチドの合成
- 新型コロナウイルスのスパイク(S)タンパク質のC末端ドメインとhACE2の複合体の2.5-Å分解能構造
- "A Multibasic Cleavage Site in the Spike Protein of SARS-CoV-2 Is Essential for Infection of Human Lung Cells" Hoffmann M, Kleine-Weber H, Pöhlmann S. Mol Cell 2020-05-21.
- "C-end rule peptides mediate neuropilin-1-dependent cell, vascular, and tissue penetration" Teesalu T [..] Sugahara KN [..] Ruoslahti E. PNAS 2009-07-24
- 2020-08-09 マウスCMV感染の宿主因子をネクロプトーシスを指標とするCRISPR KOスクリーンにより同定 - 2020-10-21 新型コロナウイルス感染の鍵を握る一連の宿主因子を, ゲノムワイドCRISPRスクリーンで同定ニューロピリン1
- 2020-10-21 新型コロナウイルス感染の鍵を握る一連の宿主因子を, ゲノムワイドCRISPRスクリーンで同定
コメント