出典

[NEWS] ‘It opens up a whole new universe’: Revolutionary microscopy technique sees individual atoms for first time. Callaway E. Nature 2020-06-03

背景
  • クライオ電顕 (cryoEM)による生体高分子の立体構造解析は、Nature Methods誌の"Method of the Year 2015"に選ばれた。 [1, 2]
  • 2017年には、クライオ電顕法を開発・確立したJacques Dubochet (U Lausanne), Joachim Frank (Columbia U)ならびにRichard Henderson MRC-LMB) が2017年ノーベル化学賞を受賞した [3, 4]。
  • クライオ電顕法は、電子顕微鏡本体の開発、検出器の開発、サンプル調整・送達法改良などのハードウエアの進歩とともに、高性能な計算機の上で膨大な数の静止画像に続いて動画からの膨大なデータを処理しかつ自動化するソフトウエアの進歩によって、近年、長足の進歩を遂げてきた。
成果

 2020年5月22日同日に、MPI for Biophysical Chemistry (以下、MPI-BC)のグループと、MRC-LMBを主とするグループが、それぞれ独立に、一原子分解能のクライオ電顕法に到達し、bioRixvに投稿した [5, 6]
  • MPI-BCは、クライオ電顕のベンチマークとして利用されてきたapoferritin (アポフェリチン: 鉄と結合していないフェリチン)を1.25 Åの分解能で再構成した。これまでの記録は、阪大, MRC-LMB, JEOL, 理研の研究グループが2019年に達成した1.54 Åであった [7: PDBj万見引用下図参照 ]
  • MRC−LMBグループは今回、アポフェリンの構造を1.22 Åの分解能で、GABAA-β3の構造を2019年の2.5 Åを超える1.73 Åの分解能で再構成した。 
  • MPI-BCグループは、Falcon 3検出器を備えたThermofisher Titan Kriosの電顕にCEOS GmbHのモノクロメーターと第2世代球面収差補正器 (B-COR)を組み込んだ装置 (Titan Mono-BCOR)によって分解能の壁を超えたとしている。
  • MRC-MBグループも、Titan Kriosをベースに電界放出電子銃 (cold field-emission electron gun)の最適化に加えて非弾性散乱を除去するエネルギーフィルターを備えた最新のFalconカメラなどの技術によって分解能の壁を超えたとしている。
クライオ電顕の広がり
  • Nature Methods 2015年の記事 [2] には2010年から2015年(10月)までのタンパク質立体構造再構成の分解能の向上 (Figure 1参照)と、1974年の誕生から2015年までの技術開発の経緯がまとめられていた (Figure 2参照)。
    NEWSの挿入図には、クライオ電顕で再構成された構造の分解能の平均値が、2002年から15 Å~ > 20 Åの範囲で上下し、電子直接検出カメラ (direct electron detector, DED)の組み込みなどを経て、2015年から年々向上し2020年には > 5 Åに達し、チャンピオンデータでは、2008年以後年々向上し, 2007年から2008年にかけて、5 Åを切り、今回2020年の1.25 Åに達したことが描かれている。
  • RCSB PDB統計ページで、PDBでの年間の新規公開件数を手法別に見ると、X線構造解析が2017年10,081件、2018年 9,782件, 2019年96,663件へと減少、クライオ電顕が565件, 886件, 1,452件と増加、X線, クライオ電顕, NMRなどを組合せたハイブリッドが、8件, 24件, 19件と上下していた [総公開件数と年間新規公開件数の年変動グラフを画面キャプチャし、下図へ引用] 
PDB entries
展望
  • 今回の分解能の限界突破を受けて、創薬企業における構造解析法もクライオ電顕法に傾いていくであろうが、MPI-BC投稿の責任著者であるH. Starkは、タンパク質の結晶化は必ずしも成功するとは限らないが、X線結晶構造解析は結晶が得られさえすれば数千の低分子との複合体構造の解析を、クライオ電顕よりも遥かに効率よく実現すると、指摘した。
  • H. Starkはまた、現在の最先端技術をもってしても、1 Åを切る分解能達成は不可能とし、“several hundred years of data recording and a non-realistic amount of compute power and data-storage capacities”とした。
[関連crisp_bio記事]
[参考文献]
  1. "Method of the Year 2015" Nat Methods 13, 1 (2016)
  2. "The development of cryo-EM into a mainstream structural biology technique" Nogales E. Nat Methods 2015-12-30. 
  3. 3NEWS "Cryo-electron microscopy wins chemistry Nobel" Cressey D, Callaway E. Nature 2017-10-04. ; [詳細] Press release: The Nobel Prize in Chemistry 2017. The Nobel Prize 2017-10-04
  4. [日本語解説] 2017年ノーベル化学賞は「クライオ電子顕微鏡の開発」に!Chem-Station(略称:ケムステ) 2017-10-04
  5. "Breaking the next Cryo-EM resolution barrier – Atomic resolution determination of proteins!" Yip KM, Fischer N, Paknia E, Chari A, Stark H. bioRixv 2020-05-22. (MPI for Biophysical Chemistry)
  6. "Single-particle cryo-EM at atomic resolution" Nakane T, Kotecha A, Sente A [..] Aricescu AR, Scheres SHW. bioRxiv 2020-05-22. (MRC-LMB, Thermo Fisher Scientificなど)
  7. "CryoTEM with a Cold Field Emission Gun That Moves Structural Biology into a New Stage" Kato T [..] Namba K. Microsc Microanal 2019 Aug;25 (3):998-999