[出典] "Genome-wide CRISPR screen reveals host genes that regulate SARS-CoV-2 infection" Wei J [..] Doench JG, Wilen CB. bioRxiv 2020-06-17.  [査読なし投稿] > Cell 2020-10-20 (Journal Pre-proof); crisp_bio 2020-10-21 新型コロナウイルス感染の鍵を握る一連の宿主因子を, ゲノムワイドCRISPRスクリーンで同定

 ウイルスは宿主細胞の一連の因子を利用することで感染する。Craig B. Wilen (Yale School of Medicine)とJohn G. Doench (Broad Institute)を責任著者とする27名の研究グループは今回、モデル細胞でのゲノムワイドCRISPR遺伝子ノックアウト(KO)スクリーンを介して、新型コロナウイルスが宿主細胞に侵入しそしてまたは増殖するに必須の宿主因子と、ウイルスの感染を抑制する宿主因子の同定を試みた。
  • アフリカミドリ猿の腎臓上皮細胞由来のVero-E6細胞に対して、全遺伝子を標的可能なsgRNAsのライブラリーを利用するプール型ゲノムワイドCRISPR KOスクリーンを行った。
     このスクリーンでは、Cas9-sgRNAの遺伝子編集を受けた細胞の中で、新型コロナウイルスが感染できなかった細胞でKOされていた遺伝子が感染必須遺伝子 (以下、必須遺伝子)を、新型コロナウイルスの感染が進行し細胞死した細胞でKOされていた遺伝子から抗ウイルス遺伝子 (抑制遺伝子)を、知ることができる。
  • 必須遺伝子トップヒット25には、SARS-CoV-2のSタンパク質に対する受容体遺伝子として知られているACE2、 宿主細胞内でのウイルス成熟に必須とされているプロテアーゼであるカテプシンL (Cathepsin L: CTSL)遺伝子に加えて、SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体、TGF-βシグナル伝達パスウエイ、alarminの一種であるHMGB1遺伝子などが含まれていた。
  • 一方で、抑制遺伝子のトップヒットには、ヒストンH3のバリアントであるヒストンH3.3のシャペロン複合体を構成するHIRACABIN1が並んだ。
  • 必須遺伝子については、阻害剤の効果を見た。SWI/SNFタンパク質のブロモドメインであるSMARCA4SMARCA2、および、TGF-βパスウイエのタンパク質SMAD3を阻害する低分子投与により、ウイルスの感染そしてまたは増殖が阻害されることを確認した。
 こうして、アフリカミドリザル由来のVero-E6細胞で、新型コロナウイルスの宿主因子として、既知の因子の同定に成功するとともに、新規因子も見出した。一方で、既知の因子の中でウイルスの成熟に関与するとされているTMPRSS2 [1], TMPRSS4およびFURIN [2, 3]は、必須と判定するに至らなかった。これについて投稿は、他の遺伝子との機能的冗長性やVero-E6細胞とヒト細胞の違いに言及していた。また、HEK293細胞で解析されたタンパク質間ネットワーク [4]の結果と整合しない因子も存在したが、これらについては、両者が相補的であることが示唆されていた。

 TMPRSS2については、責任著者の1人であるJ. G. Doenchは一連の論文紹介ツイート [*]の中で、改めて、考えられる原因3つを上げた:
  • sgRNAの不活性: CRISPR-Cas9による遺伝子編集実験で起こり得ること
  • 冗長性: TMPRSS2の機能を代替する遺伝子が存在する可能性
  • 非細胞自律性 (non-cell autonomous): プール型スクリーニングで生成される細胞集団は不均一であり、TMPRSS2 KO細胞が周囲を囲むTMPRSS2を帯びたままの細胞群の影響下にあった可能性
    [*] 当該する一連のツイートの冒頭を以下に引用: