出典] "Successful delivery of large-size CRISPR/Cas9 vectors in hard-to-transfect human cells using small plasmids" Søndergaard JN [..] Kutter C. Commun Biol 2020-06-19

 CRISPR/Casシステムによるゲノム編集では、サイズ9-19 kbと大きなベクターを細胞に導入することが、低効率のトランスフェクションと高頻度な細胞死を招くことから、目的とする編集が実現した細胞を選別または精製する過程が必要になる。

 Karolinska Instituteの研究グループは今回、一定の長さ~ 3 kbの小型の空のベクター(以下、副ベクター)をトランスフェクション混合試薬に加えるだけで、エレクトロポレーションを介して、トランスフェクションが難しいとされているヒトの癌細胞や初代血液細胞へのトランスフェクション効率が40倍まで、細胞生存率が6倍まで、向上することを示した。
  • 外来核酸のトランスフェクションが困難なヒト肺癌細胞株A549に対して、エレクトロポレーションによるサイズ15 kbのCas9-sgRNA-GFPベクター (以下、本ベクター)のトラスフェクション効率は4.2%に留まり、細胞死は 91%に及ぶ。Fig. 1
  • 本ベクターにサイズ3 kbの副ベクターを等量 (equal mass) 添えることで、トランスフェクション効率が45%へと向上し、細胞死が45%へと抑制される (Fig. 1引用右図参照)。
  • この効果は、1.8 - 6.5 kbの副ベクターの中で3 kbが最も顕著であり、また、GFPの長さで調節した本ベクターの長さ (6.5 -15kbの範囲で)に依存しなかった。
  • サイズ3 kbの副ベクターの効果は、Huh7とHepG2, PC3, MCF7, HEK293, SH-SY5Y, HL-60の各種癌細胞、ならびに、末梢血単核細胞 (PBMC)と精製したCD8T細胞についても見られた。
  • 副ベクターの効果は、副ベクターの特性 (環状か直鎖状か, GC含量, 特定のモチーフ)にも依存しなかった。
  • 接着培養に比べて懸濁培養の場合、本ベクターのトランスフェクション効率がひときわ低い。この場合も副ベクターによるトランフェクション効率の向上がは見られたが、細胞生存率は改善されなかった。著者らはこの接着培養と懸濁培養の差を、トリプシン処理の有無に帰した。
  • エレクトロポレーションに代えて、 リポフェクション (Lipofectamine 3000)での送達を試みたところ、副ベクター添加によってトランスフェクション効率が向上したが、細胞生存率はやや低下した。
  • Cas9-sgRNAをコードしたDNAをベクターで送達することに変えて、in vitroで予め作成したRNPをエレクトロポレーションすることで、効率的なトランスフェクションが実現されてきた。今回の手法は、RNPの作成と作成直後のエレクトロポレーションの手順に対して、シンプル、低コストおよび短時間という特長を帯びている。
  • Fig. 2副ベクター効果の分子機序については、細胞膜の破壊と修復過程を利用したデリバリー法のレビュー [*]を参照した考察が加えられ、モデル図 (Fig.2-g引用右図参照)も用意されたが、分子機序の解明は今後の課題とされた。
    [*] 
    "Intracellular Delivery by Membrane Disruption: Mechanisms, Strategies, and Concepts" Stewart MP, Langer R, Jensen KF. Chem Rev 2018-07-27