[出典] "Structures, conformations and distributions of SARS-CoV-2 spike protein trimers on intact virions" Ke Z, Oton J, Qu K [..] Briggs JAG. bioRxiv 2020-06-27.  [査読なし投稿; EMDBとPDBの登録ID未掲載]

 新型コロナウイルス・ビリオンは、脂質二重膜に囲まれ、そこからスパイクタンパク質 (以下、S)が突き出している。高度にグリコシル化されたS三量体がヒト細胞のACE2受容体に結合し、標的細胞へのビリオンの感染が進行していく。Sは、この受容体結合、細胞膜との融合、細胞質への侵入の過程で、コンフォメーションを大きく変化する [*]

 これまでに、タンパク質発現系で過剰発現させ精製したSの構造とコンフォメーションはクライオ電顕法により再構成されてきたが、ビリオン上でのSの解析は進んでいなかった。
Medical Research Council Laboratory of Molecular BiologyとHeidelberg Universityの研究グループは今回、新型コロナウイルスを感染させたVeroE6細胞の上清を対象とする解析に基づいて、これまで不明であったビリオン表面上におけるS三量体を論じた

 ウェスタンブロッティングは、Sの~40%が、塩基性アミノ酸が複数個並んだS1サブユニットとS2サブユニットの開裂部位で開裂していることを示した。続いて、クライオ電顕法とクライオ電子トモグラフィーにより、ビリオンの像を捉えSの受容体結合ドメイン (RBD)の高精度構造 、Sのコンフォメーションの柔軟性およびSの分布を明らかにした。
  • ビリオンのサイズは、脂質二重膜の外側まで直径91 ± 11 nmであった。
  • ビリオンあたりのS三量体の数はビリオンのサイズに応じて変動したが、平均25 ± 9個であった。
  • 179ビリオンに由来するS三量体を分析した結果、その~97% (4,377本)が細胞膜融合前の幅広の形態を、~3% (116本)が細胞膜融合後を思わせる細い形態を取とっていた。
  • 融合前の4,377本のS三量体は、各モノマーのRBDがいずれも露出していない閉状態と、1モノマーのRBDが露出している状態がそれぞれ~41%と~45%を占め、少数 (~13%)が2モノマーのRBDが露出した状態であった。
  • S三量体はビリオン表面に直立しているとは限らず60°までの傾きが見られ、ストークの表面に近いの領域がヒンジとして機能し、全方向への傾きを可能にしていることが見て取れた。
  • S三量体はブリオン表面にランダムに分布し、密度は500 nm2あたり1個であった (インフルエンザAは100 nm2あたり1個)
  • 上清中のビリオンが疎であったことから、クライオ電顕法による構造解析のために濃縮する必要があった。この過程でRBDを露出したコンフォメーションのS三量体は失われ、その脆弱性を疑わせた。
  • 閉状態の構造を3.9 Åの分解能で再構成し、1モノマーのRBDが露出しているように見える構造を4.3 Åの分解能で再構成した。その上で、糖鎖の結合状態を論じ、また、先行研究から投稿されていた発現・精製したSから得られた構造 [**]との相違を論じた。
    [**] 新型コロナウイルスのスパイク糖タンパク質 (S)の構造、機能および抗原性; PDB ID: 6VXX6VYB
 クライオ電顕法から得られたビリオン上でのS三量体のin situ構造情報は、S2サブユニットやストークを標的とする中和抗体やワクチンの設計に有用である