2020-08-06 Cell 誌プリント版出版
2020-06-30 Cell 誌Online ahead of print版公開
[出典] "A universal design of betacoronavirus vaccines against COVID-19, MERS and SARS" Dai L [..] Qin C, Yan J, Gao GF. Cell 2020 Aug 06: 182(3):P722-733.E11. Online 2020-06-28

背景
 コロナウイルス (CoV)は、α, β, γおよびδに分類される多様なエンベロープウイルスであり、そのうち7種類がヒトに感染症を引き起こす。その中で、α-CoVの2種類 (hCoV-NL63とhCoV-229E)およびβ-CoV2種類 (HCoV-OC43とHKU1)は、自然治癒する風邪の症状を引き起こす。残る3種類のβ-CoV (SARS-CoV, MERS-CoVおよびSARS-CoV-2)が、重篤な感染症を引き起こすが、いずれについても、効果的なワクチンも治療薬も存在せず、致命率34.4%であった2012年のMERS-CoVの感染例が未だ報告されている。パンデミックが続くCOVID-19に限らずβ-CoVに因るMERS/SARS感染症を制御可能にするワクチンの開発が急がれる。

 CoVsは、宿主細胞の受容体をエンベロープから突き出しているスパイク (S)タンパク質で認識し、宿主細胞への侵入を開始する。Sタンパク質はその受容体結合ドメイン (RBD)を介して受容体に結合する。SRAS-CoVとSRAS-CoV-2のヒト宿主細胞受容体はhACE2と共通であり、MERS-CoVはhCD26 (hDPP4)であるが、これらのCoVが受容体を認識する構造基盤は著者らを含む複数の研究グループによって明らかにされてきた。

 CoVに対して最も効果的な中和モノクローナル抗体は、CoV RBDを標的とした抗体であり、また、hACE2との結合を阻害することを期待できるCoV RBDはワクチン開発の格好の標的である。
したがって、MERSとSARSに対してRBDをベースにしたワクチンが開発されてきた。

 しかし、RBDをベースにしたワクチンには限界があった。免疫原性が比較的低いため、適切なアジュバントを組合せるか、タンパク質配列、フラグメントの長さおよび予防接種スケジュールを最適化する必要があった。RBDをベースとしたワクチンの免疫原性を高める手法として、抗原のサイズの拡大、多量体化、または、高密度抗原提示などがあげられるが、これには、外来遺伝子を組込む必要があった。

成果

 中国科学院の生命科学研究院、微生物研究所、動物研究所などの研究グループは今回、RBDをベースとしたワクチンの免疫原性の課題を、CoV RBDの二量体をベースとすることで、解決可能なことを示した。
  • MERS: MERS-CoV RBDをジスルフィド結合した二量体は、抗体産生応答と中和抗体 (neutralizing antibody, NAb)の力価を、単量体MERS-CoV RBDから有意に高め、マウスをMERS-CoV感染から保護した。
  • 結晶構造解析 (PDB 7C02)は、RBD二量体は、NAbの主たる標的に対する受容体結合モチーフ2つが露出することを、示した。
  • 構造情報に基づいて、ワクチンとしての効力を維持しつつ、より安定した二量体, RBDをタンデムに反復させた一本鎖の二量体 (RBD-sc-dimer) , を作出した: N末端[RBD_1]C末端N602 + N末端E367[RBD_2]C末端
  • MERS-CoVをモデルとして開発したこの手法を、SARSとCOVID-19感染症ワクチンに展開し、NAbの力価を10-100倍亢進することにも成功し、RBD二量体化をベースとしたワクチンが他のCoVに対しても有効とした。
  • ワクチン製造成功に重要な要件である生産量についても、パイロットプランで高収量を確認できたことから、有望とした。