[出典] "Efficient gene editing of human long-term hematopoietic stem cells validated by clonal tracking" Ferrari S, Jacob A [..] Genovese  P, Naldini  L. Nat Biotechnol 2020-06-29.

 患者由来の造血幹細胞前駆細胞 (HSPC)にex vivoで遺伝子編集を加えた上で、患者に自家移植するHSPC遺伝子治療 [*]は、血液疾患やHIV感染症からソソーム蓄積症まで、広汎な疾患の治療法として期待され、臨床試験も進んでいる[*]。
[*] 今回紹介論文の責任著者Luigi Naldiniによるレビュー EMBO Mol Med, 2019の Fig. 1 参照

 しかし、
臨床応用に向けてまだ解決すべき課題が残っている:
  • CRISPR/Cas9と病因変異遺伝子の修復または置換用のドナー・テンプレート (以下、テンプレート)による相同組換修復 (HDR)を介した高精度な遺伝子編集が、造血幹細胞 (HSC)、特に、治療に重要な長期の造血再構築能を帯びたHSCs (LT-HSCs)、では、効率が極めて低い。
  • Cas9によるDNA二本鎖切断 (DSB)をきっかけとして活性化するp53が、HDRの効率を下げることに加えて、造血系の再構築とHSCの増殖を抑制する [2-3]
 San Raffaele Telethon Institute for Gene Therapy (Milan)を主とする研究グループは今回、p53の活性化の抑制とHDRの亢進を介して、目的とする遺伝子編集が進行したLT-HSCsを効率よく獲得するプロトコルを確立した。
  • はじめに、テンプレートにバーコード (以下、BAR)として導入した22-bpの配列をディープシーケンシング (BAR-seq)することで、マウス移植後までに至るHSPCsクローンを追跡し、遺伝子編集HSPCsクローンの動態を分析した。
  • Cas9 RNPによる遺伝子編集によって、p53が活性化し、血液キメラマウスにおいてHSCクローンのレパトアが顕著に縮小した。一方で、生着したクローンは多分化能と自己複製能を維持していた。
  • GSE56 (p53 R175H変異アイソフォーム)によって一時的にp53の活性化を阻害 [2]することで、ポリクローナルなレパトアが復活した。
  • アデノウイルス5型E4orf6/7タンパク質を一時的に発現させ、細胞周期制御因子E2Fの標的遺伝子へのリクルートと、細胞周期のS/G2期への強制移行を介して、HDR効率を向上した。
  • E4orf6/7の発現とp53阻害を組み合せることで、HSCsの再増殖能と自己再生能を損なうこと無く、LT-HSCsのHDR効率最大50%を実現した。
 この新たなプロトコルによって、従来法に対して、クローンのレパトアの拡大と、遺伝子編集実現HSPCsの比率向上が実現し、HSPC遺伝子治療の可能性を広げた。

参考文献とcrisp_bio記事
  1. "Genetic engineering of hematopoiesis: current stage of clinical translation and future perspectives" Naldini L. EMBO Mol Med 2019-01-22
  2. 2019-04-16 CRISPR/Cas9遺伝子治療におけるp53問題 (2報) [第1項]: "Precise Gene Editing Preserves Hematopoietic Stem Cell Function following Transient p53-Mediated DNA Damage Response" Schiroli G, Conti A [..] Genovese P, Naldini L, Di Micco R. Cell Stem Cell. 2019-04-04. Online 2019-03-21
  3. 2020-05-26 CRISPR-Casゲノム編集におけるp53問題: Cas9の発現がp53の活性化とp53機能喪失変異を誘導拡大する