[出典] "Systemic nanoparticle delivery of CRISPR-Cas9 ribonucleoproteins for effective tissue specific genome editing" Wei T, Cheng Q, Min YL, Olson EN, Siegwart DJ. Nat Commun 2020-06-26

 Cas9/sgRNAをRNPの形式でデリバリーすることで、オフターゲット編集を抑制しつつ効率的遺伝子編集が実現するとされている。また、RNPの免疫原性は低いとされている。このRNPの臨床応用にあたっては、治療標的への安定かつ効率的デリバリーが課題である。

 これまで、サイズが大きいCas9と強い負電荷を帯びているsgRNAを、分解や変性から保護しつつ標的部位へデリバリーすべく、非ウイルス性のナノ粒子キャリアが開発されてきた。DNAナノクルー [1]、カチオン性脂質ナノ粒子/リポプレックス [2-3]、金ナノ粒子 [4]、およびゼオライトイミダゾレート構造体 (ZIF) [5]などである。しかし、これらの殆どがキャリアとなるナノ粒子を形成後にRNPsを静電相互作用などにより吸着させる過程を経るため、サイズ、一様性、および、安定性の制御が困難であり、ひいては、内耳、筋、脳、および腫瘍といった部位へとデリバリーすることが困難であった。

 UT Southwestern Medical Centerの研究グループは今回、
全身にデリバリー可能な安定したナノ粒子を開発することで、RNPを任意の部位にデリバリーする戦略を試みた。LNP

 脂質ナノ粒子の特性から合理的に選択した"
pHの如何に依らずカチオン性を維持する脂質 (permanently cationic lipid), DOTAP"を古典的な脂質ナノ粒子5A2-SC8に加えることで、RNPを損なうこと無く、中性のバッファー中で脂質ナノ粒子 (lipide nanoparticle: 以下, LNP)に取り込ませ、かつ、静脈経由で全身にデリバリー可能なことを、示した[Fig. 1 - a引用右図参照]。
 この引用図は、マウスの尾静脈への注入を介して (全身投与を介して)、肝臓特異的遺伝子編集と肺特異的遺伝子編集を5A2-SC8に対するDOTAPの比率を変えることで、切り替えられることを示している (図の中では、5A2-DOT-10と5A2-DOT-50の切り替え)。
  • DOTAP添加はLNPに限らず、デンドリマーLNPs (DLNPs)、安定な核酸脂質ナノ粒子 (stable nucleic acid lipid particles: SNALPs)および脂質様ナノ粒子 (lipid-like nanoparticle: LLNPs)でも効果を示した。
  • 全身投与を介して肝臓と肺に特異的な遺伝子編集を実証し、また、内在遺伝子を標的とする遺伝子編集においてオフターゲット編集が非検出であることも確認した。
  • 5A2-DOT-50を介して、肺特異的に6種類の遺伝子を標的とする多重遺伝子編集を、および、Cas9/sgEml4/sgAlk RNPsをC57BL/6マウスに尾静脈から注入することで、肺特異的に染色体転座と癌組織が誘導されることを、実証した。
  • 5A2-SOT-5 (DOTAP 5%)を介して、肝臓特異的に、P53イタ、PTENイタおよびRB1の3種類の腫瘍抑制遺伝子を抑制し、肝臓癌および転移癌が誘導されることも確認した。
  • 5A2-DOT-10を介してCas9/sgDMD RNPを前脛骨筋へ注入することで、筋ジストロフィーマウス (DMDマウス) におけるジストロフィン発現の回復を実現した。
  • 5A2-DOT-5を介してCas9/sgPCSK9 RNPを尾静脈へ注入することで、C57BL/6マウスにて高コレステロール血症の治療標的である血清中レベルの低下も実現した。
[関連crisp_bio記事]
  1. CRISPRメモ_20200528 - 2  [第11項] Cas12a/crRNA RNPをDNA nanoclews  (DNA NCc)を担体としてデリバリーすることで、マウスにて血清コレステロールの調節を実現
  2. CRISPR関連文献メモ_2016/03/11 [第2項] Cas9 mRNAを脂質ナノ粒子で送達し、チロシン血症モデルマウスの治療を実現; [第3項] Cas9-sgRNA複合体またはCreリコンビナーゼを脂質ナノ粒子で送達し、効率的ゲノム編集を実現
  3. CRISPRメモ_2017/12/22 [第3項] Cas9-sgRNA RNPをカチオン性脂質でベートーベン・マウスに直接送達することで、常染色体優性難聴の遺伝子治療が可能性なことを示した
  4. CRISPRメモ_2017/12/13-2 [第1項] プロトコル]CRISPR/Cas9-RNPを金ナノ粒子で細胞質と核へ送達
  5. CRISPRメモ_2020/01/21 [第1項] CRSIPR/Cas9の細胞型特異的デリバリーを実現するバイオミメティック金属有機構造体 (MOF)