[出典] "The Histone Chaperone FACT Induces Cas9 Multi- turnover Behavior and Modifies Genome Manipulation in Human Cells (bioRxiv 2019-07-23) Mol Cell 2020-06-23
[crisp_bio注] 本記事は、bioRxiv 2019-07-23に準拠した「CRISPRメモ_2019/07/25[第2項] ヒストンシャペロンFACT複合体がCas9とdCas9の標的からの遊離を促しCas9/dCas9によるゲノム編集に影響する」の改訂版に相当

 S. pyogenes Cas9はin vitroでは基質のDNAに強く結合するが、真核生物のゲノム編集の際には短時間でDNAから遊離することが知られており[*]、細胞内に、SpCas9のDNAからの遊離を促す因子が存在すると思われる。
[*] SpCas9とDNAの結合時間など: in vitro > 5時間; 細胞内 ~ 5分 (Science 2015Fig. 3); DNA修復開始まで > ~ 30分; Cas9 RNPエレクトロポレーションから遺伝子編集完了まで ~ 1時間

 先行研究から、RNAポリメラーゼがCas9のDNAからの遊離を促すという報告 (Mol Cell 2018)があったが、それだけでは、転写されないDNA領域や、ニューロンなどの分裂終止細胞におけるゲノム編集を説明できない。UC Berkeleyを主とする研究グループは今回、この遊離に関与する真核生物細胞内の因子と、その因子がゲノム編集結果に及ぼす影響を、明らかにした。

アフリカツメガエル卵抽出液にて因子を同定
  • 細胞外のアフリカツメガエル卵抽出液中で、近接依存性標識法を介して、DNAに結合しているCas9と相互作用するタンパク質として、ヒストンシャペロン型転写伸長因子FACT https://en.wikipedia.org/wiki/FACT_(biology)を同定した。
  • FACTはDNAからのdCas9の遊離に必要十分であり、FACTを免疫除去すると、Cas9の活性がマルチターンオーバーからシングルターンオーバー (DNAに強く結合)に変わった。
ヒト細胞 (HEK293T, U2OS, K562)におけるFACTのノックダウン
  • ヒト細胞でのFACTノックダウンは、dCas9のDNA係留時間を伸ばし、ゲノム編集を遅らせ、相同組換修復 (HDR)用のドナー・テンプレートに基づくHDRを抑制し、NHEJを介したindels誘起を促進する。
  • CRISPRa (dCas9-p300)に対しては、CD25を標的として、ヒストンアセチル化を7倍にまで亢進する効果をもたらすが、転写活性化の亢進には至らないことを同定した。CD25の転写活性化にはヒストンアセチル化以外の因子が関与することが示唆される。
  • CRISPRi (dCas9-KRAB)に対しては、CD55を標的として、ヒストンメチル化を亢進する効果を確認し、また、KRABを転写開始点周辺に局在させるように標的した場合には転写抑制を亢進する効果をもたらした。