2022-11-13 記事タイトルを「ミトコンドリアDNAのC•G-to-T•A変換を、dCas9/Cas9nを必要としない塩基エディター 'DdCBE'の開発により実現」から「シチジンデアミナーゼをTALEアレイに組み合わせてミトコンドリアDNAの塩基エディター 'DdCBE'を開発」に改訂
2020-07-11 初稿
[注] DdCBEs (RNA-free) DddA-derived cytosine base editors
出典
  • NEWS "Scientists make precise gene edits to mitochondrial DNA for first time" Ledford. Nature 2020-07-08
  • News & Views "Mitochondrial genome editing gets precise" Aushev M, Herbert M. Nature 2020-07-08
  • 論文 "A bacterial cytidine deaminase toxin enables CRISPR-free mitochondrial base editing" Mok BY, de Moraes MH [..] Joseph D. Mougous JD, Liu DR. Nature 2020-07-08
'DdCBE' に至るまで
  1. 2016年 D. R Liuら、dCas9とラットのシチジンデアミナーゼをベースとして、C•G to T•A の変換を実現するシトシン塩基エディター Base Editor (BE)を発表 [原論文 Figure 1 参照; crisp_bio 2016-04-21]
  2. 2017年 D. R. Liuら、Cas9nとE. coli由来アデノシンデアミナーゼTadとその変異体TadA*のヘテロ二量体をベースとするA•T to G•C の変換を実現する ABE を発表 [原論文 Figure 1 参照; crisp_bio 2017-10-26]。これ以後、2016年のBEは CBE と称されるようになる。
  3. 2018年 D. R. Liu、Joseph D. Mougous (UW, Seatle)からの電子メールにて、Burkholderia cenocepaciaの毒素が、DNA二本鎖内のシトシンを標的とするシチジンデアミナーゼとして機能することを知る
  4. 2019年 D. R. Liuら、Cas9n, 逆転写酵素, およびテンプレートを組み込んだsgRNA (pegRNA)をベースとして、全ての塩基置換 (トランジッションとトランスバージョン)を実現する塩基エディター Primte Editor (PE)を発表 [原論文 Figure 1参照; crisp_bio 2019-10-22]
  5. 2020年 D. R. LiuとJ. D. Mougousが共同責任著者となり、B. cenocepacia由来シチジンデアミナーゼ (DddA) をベースに、dCas9/Cas9nを必要としない塩基エディター DdCBE を開発し、ミトコンドリアDNA (mtDNA)上での C•G to T•A 変換実現 [今回論文]
 参考crisp_bio記事
DdCBEs実現のポイント
  1. DddAの発見: DNA二本鎖を切断すること無く*シトシン (C)をウラシル (U)へと変換するシチジンデアミナーゼ活性を帯びていた; 今回構造も解析 [構造情報 PDB 6U08]
    [*] CBEのベースとなったシチジンデアミナーゼは、一本鎖DNA上のシトシン (C)に作用するため、CBEではdCas9またはCas9n結合を介して二本鎖DNAからの一本鎖DNA形成 (R-ループ形成)を誘導する必要があった。
  2. 細胞毒性を伴うDddAをスプリット (二分割)**することで、安全に細胞とミトコンドリアへと送達; スプリットDddAを標的位置へ誘導しスプリットDddAの一体化と活性化を実現する一対のTALEアレイ設計
    [**] HEK293T細胞において、dSpCas9/SaKKH-Cas9(D10A)を利用して、最適なスプリットの仕方を評価し、G1333とG1397での2種類のスプリットを選択 [Fig. 2参照]
  3. ミトコンドリア移行シグナル配列 (MTS)とミトコンドリアDNAを標的とするTALEアレイによる送達
  4. DddAが誘導したUをDNAの複製または修復が始まるまで保護する分子***の利用
    [***] DNAには不都合なウラシルを除去する酵素であるウラシル-DNAグリコシラーゼ(UDG)を阻害するUGIを利用することで、DddAによるDSB誘導を防止。
実証
  • HEK293T細胞において、複合体IのNADHデヒドロゲナーゼサブユニット6 (MT-ND6)遺伝子に加えて、MT-ND1, MT-ND2, MT-ND4, MT-ND5およびMT-ATP8の5種類の遺伝子で実証した [Fig. 3Fig. 4参照]
  • 塩基変換効率は2種類のスプリット、スプリットの向き、および、標的サイトに依存して変動し、平均7.4~9%のグループと42~43%のグループに分かれた。DdCBEはHEK293T細胞において18日以上活性を維持しつつ、mtDNAの領域削除を引き起こさず、mtDNAコピー数に影響せず、細胞生存性を損なわなかった。また、DbCBEは、ヒト初代線維芽細胞でも30-40%の塩基変換効率を示した。
  • オフターゲット塩基変換は標的遺伝子により変動し、平均0.049%のところ、ND6遺伝子では0.13%に達した。
  • ミトコンドリア病への取り組みの観点から、HEK293T細胞に、DdCBEによってMT-ND4遺伝子m.11922G>A変異を誘導し表現型の変化を解析した。その結果、複合体I不全と同様な表現型を示すことを確認し、DbCBEによる疾患モデルの作出ひいては病因変異修復への利用が可能なことを示した。
補足:バクテリアの防衛システム

"CRISPR/Casシステムと同様、新奇防御システムからバイオテクノロジーと生物医学に有用なツールが生まれてくることが期待される" [Science論文"Systematic discovery of antiphage defense systems in the microbial pangenome"に付されたコメント "Maps of defense arsenals in microbial genomes"より