2020-10-16 高齢者を対象としてBCGワクチンの呼吸器感染症抑制効果を見た第3相試験 (NCT03296423)の中間結果がCell誌から発表されたが、COVID-19の予防に関する知見は得られず: "Activate: Randomized Clinical Trial of BCG Vaccination against Infection in the Elderly" Giamarellos-Bourboulis et al. Cell 2020-10-15. 
 病院から退院する際にBCGまたは偽薬を接種し高齢者 (平均 ~80歳)192名について、12ヶ月間観察した結果、BCG接種グループでは偽薬接種グループに対して, 呼吸器系感染症の発症例が少なくなり (~25% vs ~43%)、また、発症したとしても発症までの期間が長くなり (16週 vs 11週) 、IL-6とTNF−α領域でH3K27acレベルが上昇自然免疫記憶 (trained imunity)を示すフェノタイプが見られた。一方で、副作用には有意差が無かった。他の器官での感染症に比べて呼吸器感染症に有意差が見られ、また、それはウイルス性次いで肺炎と見られた。
 しかし、SARS-CoV-2の感染との相関までは特定されていない。この知見はCOVID-19パンデミック前から始められたが、参加者の間にSARS-CoV-2感染がひろがらなかったためである。

2020-09-06
更新: 感染症専門医による解説記事へのリンクを追加
[出典] 新型コロナ BCG仮説の現在 予防効果は証明されたのか? 忽那賢志 (国立国際医療研究センター 国際感染症センター) Yahoo! ニュース 2020-09-06.
 2020年9月1日Cell誌に発表された論文 (Giamarellos-Bourboulis EJ et al, 2020)も含むこれまで発表された投稿・論文を総合して、BCG接種と新型コロナウイルスの相関に関する知見を次のようにまとめている:
  • 疫学的にはBCG接種率と新型コロナの症例数や死亡者数との関連が示唆されている。
  • BCG接種により(本来の)結核以外の感染症にも予防効果がある (訓練免疫/trained immunity)
  • BCG接種により直接的に新型コロナ (ウイルス感染症)の予防効果を示した研究はまだない。
 また、ブログを
  • 大人がBCGワクチン接種のために病院に駆け込んで、本来BCGワクチンを接種すべき子どもたちのBCGワクチンが足りなくなることだけは防がなければなりません。
  • また「自分は子どものときにBCGワクチンを接種しているから大丈夫だ」などと思わずに、手洗い、咳エチケット、そして3密を避けるといった感染予防の原則を徹底するようにしましょう。
と結んでいる。


2020-07-14 初稿
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[出典] "BCG vaccine protection from severe coronavirus disease 2019 (COVID-19)" Escobar LE, Molina-Cruz A, Barillas-Mury C. (medRxiv 2020-06-14) Proc Natl Acad Sci U S A 2020-07-09

 病原細菌である結核菌を標的とするBCGは、結核以外の感染症に対しても予防効果を発揮することから、新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)の症状を緩和する説が立てられ、特定の国々や地域における疫学調査が、BCGの存在がCOVID-19の流行および死亡率を抑制するという両者の負の相関を示唆してきた。

 しかし、各調査の結果を比較することは簡単ではない。調査対象となった各国における社会経済の状況、人口構成、農村部と都市部の関係、COVID-19パンデミックが始まった時期、診断テストの数と基準、COVID-19の拡大を抑制する国の戦略に大きな差異が存在するからである。

 バージニア工科大学と米・国立アレルギー・感染症研究所の研究チームは今回、疫学調査から交絡因子 (統計用語集; 日本疫学会)の可能性がある要因の影響の排除を試み、また、BCGの予防効果の生物学的基盤として"trained immunity"を取り上げた。
  • 交絡因子候補として人間開発指数, 人口, 人口密度, 都市化および年齢構成を取り上げた。気候は、COVID-19エピデミックの温度依存性が不明なため対象としなかった。予備解析に基づいて、対象国を、100万人あたり一人以上のCOVID-19死亡が発生, 65歳以上が人口の15%を占める, 都市部の住人が人口の60%を超える, 1平方km以内の人口が300人未満, および人間開発指数 > 0.7 の条件を満たす国に絞り、社会状況が類似している欧州各国の比較を進めた。
  • 多重線形回帰分析の結果、社会状況が類似している欧州各国の間では、各国におけるBCGの実施状況に相当するBCGインデックスが10%上昇する毎に、COVID-19死亡率が10.4%低下する関係が見られた (r2 = 0.88; P = 8 × 107)。また、BCGとCOVID−19死亡率が相関しないという仮説 (帰無仮説)は否定され、BCGがCOVID-19の重篤化に対する予防効果があることが示唆された。
  • 米国については、BCGを行っていない州と、BCGを行っているブラジルとメキシコの3つの州を比較し、前者でCOVID-19の死亡率が有意に高いことが見られた。
  • ドイツ内の旧西ドイツと東ドイツの領域の比較と西欧と東欧の比較からは、BCGを積極的に行っていた東側でのCOVID-19死亡率が抑制される傾向が見られた。
 今回、一定の交絡因子の影響を排除した疫学調査の結果を示したが、サンプリングのバイアスが大きい影響を否定できず、また、国レベルでの判定が各国内での地域に依存するCOVID-19死亡率の変動を説明する保証はない。研究グループは、今回見出したパターンの確証を得、BCGとCOVID-19の重篤化予防との間の因果関係を確立するには、BCGの臨床検査が必須であることも指摘し、BCGをCOVID-19またはその他の感染症の制御と予防に利用するには十分な根拠は未だ無いとした