[出典] CRISPR-CasΦ from huge phages is a hypercompact genome editor. Pausch P, Al-Shayeb B [..] Doudna JA. Science 2020-07-17; [NEWS] Megaphages harbor mini-Cas proteins ideal for gene editing. Sanders R. Berkeley U 2020-07-16

 IGI/UC Berkekeyを主とする研究グループは先行研究 []で、メタゲノムデータから再構築した> 200 kbpのファージゲノムに、多様なCRISPR-Casシステムが存在し、その中に、Cas12a, Cas12e (CasX), Cas14といったタイプV CRISPR-Casエフェクタ様タンパク質を発見しCasΦ (Cas12j)と命名していた。今回、CasΦをゲノム編集ツールとして利用可能なことをin vitroで分析・確認し、続いて、ヒト細胞と植物細胞において遺伝子編集を実現した。
  • CasΦは、Biggiephageのクレードのゲノムにコードされている。
  • CasΦ (CasΦ-1, -2, -3)は、C末端側にRuvCドメインを内在している。CasΦのRuvCドメインの配列は、最尤法による系統進化系統樹上で、一連のタイプV CRISPR-Casタンパク質の共通祖先とされているTnpBヌクレアーゼ・スーパーファミリーに属する。ただし、CasΦと他のタイプV CRISPR-Casタンパク質との配列同一性は7%未満である [Fig. 1 - AとB参照]。
  • CasΦは、~70-80 kDaとコンパクトであり、Cas9およびCas12aのほぼ半分のサイズである。
  • CasΦは、5'-TBN-3' PAMs (B: G/T/C)を含むT-リッチPAMを認識し、RuvCを介してdsDNAとssDNAを切断するが、ssRNAはin cisにもin transにも切断しない。 [Cas9, Cas12aおよびCasXとのガイドRNA処理とDNA切断の機構比較: Fig. 4 - C参照]。  
  • CasΦは、RuvCを介してCRISPRアレイからのCRISPR RNA (crRNA)成熟も担う。
  • CasΦ-2とCasΦ-3は、HEK293細胞内でdsDNA切断活性を示し、CasΦ-2は最大33%の効率を達成した。
  • CasΦ-2 RNPをプロトプラストに送達することで、シロイヌナズナ内在PDS3遺伝子に8-10 bpの削除を誘導した。
 [] 先行研究を紹介したcrirp_bioブログを以下にコピー:

CRISPRメモ_2019/03/31 [第1項] メタゲノムデータから再構築した> 200 kbpのファージゲノムに、多様なCRISPR-Casシステムが存在


[出典] "Clades of huge phage from across Earth's ecosystems" Al­Shayeb B, Sachdeva R [..] Banfield JF. bioRxiv. 2019-03-11. > Nature. 2020 Feb;578(7795):425-431; [NEWS] New Study Shows Huge Phages Are Everywhere. Henderson H. Innovative Genomics Institute2020-02-12.
 米国、デンマーク、日本、カナダ、中国、南アフリカ、フランスならびに英国の共同研究グループの報告 (crisp_bio注 - 2020-02-27:以下のテキストはbioRxiv版に準拠している。Nature版にて数字の微小な改訂があったが、アブストラクトと図に大きな改訂は無いようである [再確認した数字は以下のテキスト内で太字に]。詳細についてはNature原文でご確認のほど)
  • これまで、ファージゲノムのサイズは平均50,000 bp (50 kbp)とされてきた。研究グループは今回、ヒト、動物、土壌、河川、湖水、地下水、地下深部、海洋、温泉、バイオリアクター、集中治療室など多様なエコシステム由来メタゲノムから200 - 735 kbpと通例になく大型のファージゲノムを再構築し (これまでの最大は596 kb)、175種類のファージ配列からマニュアルで環状ゲノム35種類を完成した。最大7,694アミノ酸のタンパク質など新規因子を同定する中で、タイプII、V-­I、V-­UおよびV-Fを含むCRISPR-Casシステム を同定した。
  • ファージCRISPR-Casシステムは小型であった (CRISPRアレイ、平均値で、クラスIシステムの41に対して6リピート)。宿主の転写因子や翻訳因子などの遺伝子や遺伝子間領域を標的とするスペーサの他に、他のファージの構造や遺伝子調節を担う遺伝子を標的とするスペーサも存在した。
  • 今回同定されたファージCRISPR-Casシステムのほとんどはスペーサ獲得を担うタンパク質 (Cas1, Cas2およびCas4)が見られず、また、DNAに干渉する機能を帯びた遺伝子も欠いていた。例えば、タイプI-Cシステムのバリアントが内在していた2種類のファージは、Cas1とCas2を持たず、Cas3の代わりにヘリカーゼを帯びていた。これらは一方で、タイプV エフェクター候補のタンパク質 (~750 aa)を帯びていた [CasΦ(Cas12J)と命名]。
  • ファージゲノムには、系統樹上で、抗-CRISPRタンパク質 (AcrVA5, AcrVA2, およびAcrIIA7)とクラスタを形成するタンパク質も存在した。
  • [参考] ファージとバクテリアのCRISPR-CasシステムのDNA干渉に関するモデル図についてFig. 4参照。