[出典] Structural basis of CRISPR-Cas Type III prokaryotic defence systems. Molina R, Sofos N, Montoya G (Novo Nordisk Foundation Center for Protein Research). Curr Opin Struc Biol 2020-07-23

 タイプIII CRISPR-Casの特徴的な獲得免疫応答の分子機構について多くの研究が行われ、本ブログでも度々取り上げたきた[例えば、1-3]。その中で、[3]の導入部分を以下[*]に引用するが、それを図解したのが今回レビューのFigure 1. Type III CRISPR-Cas immunityに相当する。また、タイプIII CRISPRエフェクター複合体の構造と、セカンドメッセンジャーが関与する活性の構造基盤が、それぞれ、Figure 2 と Figure 3 にまとめられている。

 また、今後の課題として、タイプIII CRISPR-Casシステムの中で、主として解析が進められてきたサブタイプIII-AとIII-Bの他のサブタイプ-C, -D, -E, および-Fの分子機構の解明と、タイプIII CRISPR-Casとその他のタイプのCRISPR-Casの協働による獲得免疫応答機構の解明、が挙げられている。
  • タイプIII CRISPRシステムはRNAとssDNAの双方を標的可能である。サブタイプとして、Cas10とCsm複合体とcrRNAをエフェクター複合体とするIII-Aと、Cas10とCmr複合体とcrRNA をエフェクター複合体とするIII-Bが存在するが、エフェクター複合体内のcrRNAが相補的な標的に結合するとCas10のHDドメインが活性化して転写進行中のssDNAを分解し、Csm3またはCmr4ドメインの活性化により標的RNAを分解する。
  • タイプⅢ CRISPRシステムはさらに第3の核酸分解機能を備えている。Cas10にてHDドメインの活性化に加えてPalmドメインも活性化し、ATPからセカンドメッセンジャー (二次情報伝達分子)サイクリックオリゴアデニル酸(cOA)を合成し、このcOAはCsm6/Csx1のCARF (CRISPR Associated Rossman Fold)ドメインに結合してCsm6/Csx1のHEPN (Higher Eukaryotes and Prokaryotes, Nucleotide binding) ドメインをアロステリック作用を介して活性化し、非特異的なRNA分解を誘導する。
  • crRNAの標的に特異的でなく無差別なRNA分解はウイルスやファージに対する免疫応答を強化することになる。一方で、Cas10の活性は標的核酸が消滅すると停止するのに対して、Cas10によって合成されたcOAの活性は持続し、宿主細胞のRNA転写物の分解を介して宿主細胞の成長を停止することにもなる。したがって、宿主細胞には、c0Aを介した無差別リボヌクレアーゼ活性を抑制する機構が存在する。すなわち、カンドメッセンジャーを分解する'ring nuclease'である [3]
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