[出典] DNA capture by a CRISPR-Cas9–guided adenine base editor. Lapinaite A, Knott GJ [..] Beal PA, Liu DR, Doudna JA. Science 2020-07-31

ABEの歴史
  • D. R. Liuらは2017年に、E. coli tRNAアデノシン脱アミノ化酵素 (t-RNA adenine deamninase A: 野生型TadA, WT TadA)からの研究室内進化を経てWT TadAに対して14種類の変異を帯び天然には存在しないDNA内のアデノシンを脱アミノ化する酵素 (TadA*)を得、nCas9との結合様式とリンカーの長さの最適化とWT TadA/TadA*のヘテロ二量体の利用を経て、A•T-to-G•C変換を比較的効率的に実現するABE7.10に到達、Nature誌に発表した [1]
  • 続いて、D. R. LiuらはABE7.10のオフターゲット編集を抑制したABEmax [2]を開発し、これに対して、J. K. JoungらがWT TadAを削除可能なことを見出しminiABEmax [3] に至った 。
  • その後、D. R. LiuらにJ. A. Doudnaらも加わって、ABE7.10の編集効率をアデニンの脱アミノ化の高速化とエフェクターのDNAへの結合親和性を高めることで、さらに向上させることが可能という仮説にもとに研究開発を進めた。その結果、指向性進化法PACE/PANCEを介して、WT TadAに対して22種類の変異を帯びそれまでのTadA*よりも高速な脱アミノ化を実現するデアミナーゼ変異体を得さらに、オフターゲット編集を抑制する変異も導入し、2020年3月にABE7.10の590/1170倍高速なABE8e [4]を、Nature Biotechnology誌に発表した。
各ABEの構成図
成果概要

 ABE7.10に組み込まれたTadA*が帯びている変異の意味については、LiuとDoudnaらとは独立な研究グループが、分子動力学シミュレーションと実験検証にとづいて考察を加え、Science Advances誌に発表していた [5]

 J. A. Doudna, D. R. LiuにP. A. Bealらが加わったUC Berkeley, Broad InstituteならびにUC Davisの研究グループは今回、クライオ電顕単粒子再構成法と反応速度論的解析により、TadA-8eの高速塩基変換が拠って来る構造基盤を明らかにし、また、より高性能なABEを合理的に設計する手がかりを提示するに至った。

構造情報
  • EMD-21308  CRISPR-Cas9 ABE8e in a substrate-bound state (解像度: 3.2 Å)
  • PDB 6VPC  Structure of the SpCas9 DNA adenine base editor - ABE8e
詳細
  • 6VPC 2020-07-31クライオ電顕法で再構成した構造は、ABE8eのsgRNAがdsDNA内の標的鎖 (target-strand: TS)に結合し、その際に、ABE8eのTadA*がR−ループ構造の非標的鎖 (nontarget strand: NTS)に結合した脱アミノ化の過程における一時的状態を捉えている。これは、NTS内の標的アデニンを、脱アミノ化の反応中間体の類似体 (8-azanebularine; 8Az)に置換することで実現した [全体構造, PDBから引用した右図モデル参照]。
  • ABE8eはnSpCas9に単一のTadA*を融合した構成であるが、今回、基質のdsDNAに結合したABE8eのTadA*に、そのABE8eとは異なるABE8eのTadA*がトランスに結合しTadA*二量体を形成することが見えてきた (以下, 前者をシス結合TadA*、後者をトランス結合TadA*)。
  • TadA-NTSシスTadA*は、ssDNAのNTSに結合するがSpCas9との接合面を提示せず、また、dsDNAには結合しない。一方でトランスTadA*はNTSには結合せず、SpCas9のRuvCドメインに対して非選択的接合面を提示する。また、シス-ssDNAの脱アミノ化の速度が、トランス-ssDNA脱アミノ化の~3.7倍に相当し、ABE8eが複数回反応を触媒するMultiple Turnover酵素であることをin vitroで同定した [TadA*ドメインとNTSの結合模式図, PDBから引用した右図参照]。
  • ABE8eの高速化は、ABE8eの活性中心に近いに位置する変異が、その構造が柔軟なssDNAを、TadA*の狭い基質結合ポケットに入り込めるようにトランスファーRNAに似たコンフォメーションへと誘導し、拘束することで、実現されていた。
  • 一方で、nSpCas9に融合したTadA*は常時活性化している。したがって、nSpCas9-sgRNAがdsDNAを走査してPAMを認識し標的部位に結合するまでに、標的部位以外の領域のDNAセグメントに次々に結合しては遊離することを繰り返す間に、高速に脱アミノ化することが、標的アデニン以外のアデニンを脱アミノ化するオフターゲット編集をもたらす。
[参考crisp_bio記事]