[出典] Emerging New Concepts of Degrader Technologies. Ding Y, Fei Y, Lu B. Trends Pharmacol Sci 2020-04-23

 2000年はじめに登場したPROTAC (PROteolysis TArgeting Chimera) [1]によって、創薬の戦略が、標的タンパク質の阻害から分解へと拡がったが、近年、標的タンパク質分解戦略もPROTACからさらに拡がりを見せている。復旦大学の研究チームは今回、標的タンパク質をリソソームへ誘導し分解する技術をレビューし、その可能性と課題を論じた。

標的タンパク質を選択的に分解するこれまでの手法  [Figure 1参照]
 病原性タンパク質の形成自体を、ゲノム編集技術やアンチセンスオリゴヌクレオチド (ASOs)を利用して阻害することが可能である。しかし、こうしたDNAまたはRNAを標的とする技術を、in vivo遺伝子治療に展開するには、生体内へのサイズの大きな因子の送達が課題となっている。特に、神経疾患の遺伝子治療への展開にはこの送達が大きな障害となっている。また、実現したとしても、極めて高額な治療法になることも、課題である。これに対して、病原性タンパク質を低分子で分解へと誘導することで病原タンパク質*のレベル低減を実現する技術は、魅力的な代替技術である。
[*] 以下、標的タンパク質をPOI (関心のあるタンパク質/protein of interestの意)と表記

疎水性タグ化誘導分解分子/Hydrophobic Tagging (HyT) [2]
  • HyTは、疎水性フラグメントとPOIに結合するリガンドとの二機能性分子であり、HyTを熱ショックタンパク質が認識・結合し、POIをプロテアソームへ誘導・分解する。分解時にリサイクル可能な疎水性フラグメントを利用することで、分解効率を上げることが可能である。
  • 例えば、疎水基の一種であるカルバミン酸 tert-ブチル (tert-butyl carbamate)で保護したArg (Boc3Arg)をPOIのリガンドに結合したキメラ分子によって、POIを20Sプロテアソームに誘導し分解可能なことが実証されている [2]。この過程は、ATPにも、ユビキチン化パスウエイにも、依存しない。
  • HyTは面白い概念であるが、拡がりをみせず、また、臨床応用にあたってはBoc3Argのオフターゲット作用が課題である。
タンパク質分解誘導キメラ分子/PROteolysis TArgeting Chimeras (PROTAC) [1]
  • PROTACはE3リガーゼのリガンドとPOIのリガンドとの二機能性分子であり、POIをE3リガーゼに近接させ、POI K48をポリユビキチン化することで、POIをプロテアソームでの分解へと誘導する。
  • E3リガーゼは600種類以上知られているが、これまでにPROTACに利用されたのは、MDM2cIAP1Von Hippel Lindau (VHL)CRBN など、ごく一部である。
  • 創薬応用の観点からPROTACの研究開発は拡がりを見せ、最近では、時空間制御を目指して、光スイッチ分子ゾベンゼンを利用したAzo-PROTAC [3] /PHOTAC [4] や、光ケージ化 (photo-caged) PROTAC (pc-PROTAC) [5] が実現されている。
  • PROTACにも課題はある。分子量が大きい (>800 Da), 極性表面が比較的広い, 可溶性が低い, 細胞透過性が低い、経口バイオアベイラビリティが低い, 血液脳関門透過性が低い, などである。
  • また、PROTACは、特定のE3リガーゼ・サブユニットに依存することから、その発現に左右され、適用可能な細胞型が限定され、また、PROTACに対する耐性を癌細胞が帯びる可能性がある。
  • PROTACのタンパク質分解性能はプロレテアソームに依存することから、伸長反復配列、凝集タンパク質および非タンパク質分子の分解に難がある。
低分子誘導タンパク質分解の新概念 [Figure 2参照]

 近年、PROTACのE3リガーゼ依存とプロテアソーム依存から来る限界を、プロテアソームとは独立なリソソーム分解パスウエイ (エンドソーム/リソソーム・パスウエイとオートファジー・パスウエイ) によって超える手法が登場した。

  • エンドソーム/リソソーム・パスウエイに利用する手法としてLYTAC (LYsosome TAargeting Chimera) が開発されている。オートファジー・パスウエイを利用する手法としては、AUTAC (AUtophagy-TArgeting Chimera) と選択的オートファジーを利用するATTEC (AuTophagosome-TEthering Compound) が開発されている。
  • LYTAC [6] は、POIとして細胞外分泌タンパク質そしてまたは膜タンパク質を選択可能にした特徴を備えているが、細胞質内タンパク質は対象外である。LYTACの臨床応用には、PROTACと同じようにサイズの大きさが課題であり、また、LYTACの構成要素であるPOIに結合する抗体やポリペプチドの免疫原性が課題である。
  • AUTAC [7]は、POIのリガンドとグアニン誘導体で構成され、PROTACと同様にユビキチン化に依存するが、S-グアニル化を介して選択的オートファジー・パスウエイに認識されるK48のポリユビキチン化を誘導する。AUTACが誘導するタンパク質分解過程は多段階でありその分子機構を詳らかにしていく必要があるが、POIに加えて、損傷したミトコンドリアなどの細胞小器官も分解可能な特徴を帯びている。
  • ATTEC [8] は、POIとオートファゴソームのマーカであるLC3タンパク質を結合することでオートファゴソームにPOIを取込み分解する。AUTACならびにPROTACと異なりPOIのユビキチン化に依存しない特徴を帯びている。ATTECによって、伸長polyQを帯びたハンチントン病の病原タンパク質HTT変異体や脊髄小脳変性症3型の病原タンパク質ATXN3変異体の分解が実現している。ATTECの中には血液脳関門を透過可能な分子もあり、また、~100 nM濃度で効果を発揮する特徴も備えている。臨床応用には、ATTECがマクロオートファジーに副作用を及ぼさない検証が必要である。
 新技術についても、その臨床応用にはいずれもさらなる最適化が必要であるが [レビューには詳細な考察あり]、新技術は、可溶性タンパク質に限らずタンパク質凝集体、DNA/RNA分子、ペルオキシソーム、リボソーム、損傷ミトコンドリア、あるいは、微生物病原体の分解に展開可能である。PROTAC, LYTAC, AUTACならびにATTECについて、利用する分解パスウエイ, 標的可能なタンパク質など, 特徴および限界の比較表が Table 1にまとめられている。

[参考文献とcrisp_bio記事]
  1. [HyT] Boc3Arg-Linked Ligands Induce Degradation by Localizing Target Proteins to the 20S Proteasome. Shi Y [..] Hedstrom L. ACS Chem Biol 2016-10-05
  2. [PROTACS] Protacs: Chimeric molecules that target proteins to the Skp1–Cullin–F box complex for ubiquitination and degradation. K M Sakamoto 1, K B Kim, A Kumagai, F Mercurio, C M Crews, R J Deshaies. Proc Natl Acad Sci U S A. 2001-07-03.
  3. [Azo-PROTAC] Azo-PROTAC: novel light-controlled small-molecule tool for protein knockdown. Jin YH [..] You QD, Jiang ZY. J Med Chem 2020-03-19
  4. [PHOTAC] 2020-08-03 PHOTAC: PROTACに光スイッチを組込み光によるタンパク質分解の時空間制御を実現 
  5. [pc-PROTAC] Light-induced protein degradation with photocaged PROTACs. Xue G [..] Zhong H, Pan Z.  J Am Chem Soc 2019-09-30
  6. [LYTAC] 2020-08-03 細胞外分泌タンパク質と膜タンパク質を内在化しリソソームに誘導・分解する
  7. [AUTAC] 2019-10-16 PROTACにアタックするAUTAC - 細胞内デブリ分解にオートファジーを利用する 
  8. [ATTEC] a potential new approach to target proteinopathies. Li Z, Zhu C, Ding Y, Fei Y, Lu B. Autophagy 2019-11-07.