2020-12-20 国立感染症研究所の「新型コロナウイルスSARS-CoV-2のゲノム分子疫学調査 3 (2020年10月26日現在)」をもとに、以下 [*]を追記し、タイトルを「感染拡大は無症状/軽症者を含む'サイレントリンク' から - 見えにくいクラスター」から、「感染研の3回の分子疫学調査から, 国内感染は東京から全国へと広がった可能性が高まってきた」に改訂

2020-12-20 19.55.28[*] 国立感染症研究所の第3回ゲノム分子疫学調査の結果を、第1回、第2回の結果と比較してみた [第三回報告の感染拡大図を右図へと引用]:
  • 第1回 (4月27日時点):1~2月の中国系統にかわって3月中旬から欧州系統による国内同時多発クラスターと都内から地方への拡散; 第3、第4の波が来ることは必然であり、今後、クラスター発生を最小限に留めるためにも迅速な情報公開と効果的な感染症対策の構築を図っていく。
  • 第2回 (8月5日時点):4月上旬に地方の大規模クラスターが首都圏出張を基点にしていることを発見; 6月下旬以降地方出張等が一つの要因になって東京一極では収まらず全国拡散へ発展してしまった可能性を推察
  • 第3回 (10月26日/公開は12月11日):欧州系統からの明確になリンクが見えないまま7月以後、2つの起点に由来するウイルス株がほとんどである; この期間、特定の陽性者として顕在化せず保健所が探知しづらい対象(軽症者もしくは無症状陽性者)が感染リンクをつないでいた可能性が残る。
  • 国際的に注目を集めているD614G変異については、日本での流行株のほとんどが欧州系統から継承している。
2020-08-08 初稿
----------------------
[出典] 新型コロナウイルスSARS-CoV-2のゲノム分子疫学調査2 (2020/7/16現在) 国立感染症研究所.

 感染研 (国立感染症研究所)は、新型コロナウイルスのゲノム配列の変異を手がかりに、国内で分離されたウイルス間の親子関係から、伝播経路の推定を進めている。

分子疫学調査1 (2020-04-27)

2020-08-08 14.26.03 国内562 患者由来の各ウイルス株のゲノム配列から、 GISAID登録ウイルス・ゲノム情報を参照することで抽出した1塩基変異 (SNVs)に基づいて、各ウイルス株間の親⼦関係を⽰すハプロタイプ・ネットワークを描き [感染研Webサイトから引用した右図参照]、国内での伝播経路を分析し、その結果を4月27日にWebサイトで公開し [1]、続いて、7月2日にプレプリント誌medRxivに投稿した [2]
  • 1~2月 武漢由来ウイルスによるクラスター発生
  • 3月中旬まで各地での封じ込め一定の成果
  • 3月下旬~4月上旬、欧州系由来ウイルスにより全国で同時多発でクラスターが発生したが、 地⽅の⼤規模クラスターが⾸都圏出張を基点にしていることも発見
  [参考試料]
  1. 新型コロナウイルスSARS-CoV-2のゲノム分子疫学調査. 国立感染症研究所 2020-04-27.
  2. A genome epidemiological study of SARS-CoV-2 introduction into Japan. Sekizuka T [..] Kuroda M, COVID-19 Genomic Surveillance Network in Japan. medRxiv 2020-07-02
分子疫学調査2 (2020-08-05)

 3,618 名の国内患者、ダイアモンド・プリセンス号の乗員乗客患者 70 名、空港検疫所の陽性患者 67 名 (外国⼈含む)由来のウイルスゲノム配列から、分子疫学調査1と同じ手法で国内伝播を分析した。

2020-08-08 14.57.27 感染研のWebページから引用した右図で注目すべき点は、オレンジ色の背景をつけたネットワークの中央部に位置している欧州系由来で3月下旬に全国同時多発したクラスターのウイルスに対して、一気に [*] 6塩基の変異が新たに加わったウイルスのクラスターが6月下旬に顕在化したことである。

 [*] 3ヶ月間に6塩基の変異は1ヶ月に2塩基の変異に相当し、分子疫学調査1の時点と変異速度が早まったわけではない。この6月のクラスターを3月のクラスターに紐付ける感染者もクラスターもこれまでのところ発見されていないため、6塩基の新たな変異を帯びたクラスターが突然現われたように見える [右図点線部分参照]。

 このことは、"3月から6月にかけて、
特定の患者として顕在化せず保健所が探知しづらい対象 (軽症者もしくは無症状陽性者)が、感染リンクを静かにつないでいた"ことを示唆する。なお、図の右上の「地域固有発生した国内クラスター群」は、3月クラスターに1~2塩基変異が加わったクラスターであり、3月クラスターに紐付けられる。

[crisp_bio注]

 韓国スンチュンヒャン大学病院のEunjung Leeらは 
[**]、無症状感染者のウイルス量が、症状が顕在している患者と同レベルであり、また、治療センターに収容した無症状感染者110名の中で21名が収容から13-20日のうちに発症した'pre-sympotomatic'であったことを報告した。
[**] 2020-08-07 新型コロナウイルス: 無症状感染者のウイルス量は症状が顕れている感染者と同レベル

 これを、今回の感染研の報告に重ね合わせると、日本国内での感染に拡がりの一因が、無症状感染者、特に、
'pre-sympotomatic'感染者、による'サイレントリンク'のように見えてくる。

[参考] 新型コロナウイルスに見られるアミノ酸変異に関するcrisp_bio記事