[出典] 新型コロナウイルスSARS-CoV-2のゲノム分子疫学調査2 (2020/7/16現在) 国立感染症研究所.

 感染研 (国立感染症研究所)は、新型コロナウイルスのゲノム配列の変異を手がかりに、国内で分離されたウイルス間の親子関係から、伝播経路の推定を進めている。

分子疫学調査1 (2020-04-27)

2020-08-08 14.26.03 国内562 患者由来の各ウイルス株のゲノム配列から、 GISAID登録ウイルス・ゲノム情報を参照することで抽出した1塩基変異 (SNVs)に基づいて、各ウイルス株間の親⼦関係を⽰すハプロタイプ・ネットワークを描き [感染研Webサイトから引用した右図参照]、国内での伝播経路を分析し、その結果を4月27日にWebサイトで公開し [1]、続いて、7月2日にプレプリント誌medRxivに投稿した [2]
  • 1~2月 武漢由来ウイルスによるクラスター発生
  • 3月中旬まで各地での封じ込め一定の成果
  • 3月下旬~4月上旬、欧州系由来ウイルスにより全国で同時多発でクラスターが発生したが、 地⽅の⼤規模クラスターが⾸都圏出張を基点にしていることも発見
  [参考試料]
  1. 新型コロナウイルスSARS-CoV-2のゲノム分子疫学調査. 国立感染症研究所 2020-04-27.
  2. A genome epidemiological study of SARS-CoV-2 introduction into Japan. Sekizuka T [..] Kuroda M, COVID-19 Genomic Surveillance Network in Japan. medRxiv 2020-07-02
分子疫学調査2 (2020-08-05)

 3,618 名の国内患者、ダイアモンド・プリセンス号の乗員乗客患者 70 名、空港検疫所の陽性患者 67 名 (外国⼈含む)由来のウイルスゲノム配列から、分子疫学調査1と同じ手法で国内伝播を分析した。

2020-08-08 14.57.27 感染研のWebページから引用した右図で注目すべき点は、オレンジ色の背景をつけたネットワークの中央部に位置している欧州系由来で3月下旬に全国同時多発したクラスターのウイルスに対して、一気に [*] 6塩基の変異が新たに加わったウイルスのクラスターが6月下旬に顕在化したことである。

 [*] 3ヶ月間に6塩基の変異は1ヶ月に2塩基の変異に相当し、分子疫学調査1の時点と変異速度が早まったわけではない。この6月のクラスターを3月のクラスターに紐付ける感染者もクラスターもこれまでのところ発見されていないため、6塩基の新たな変異を帯びたクラスターが突然現われたように見える [右図点線部分参照]。

 このことは、"3月から6月にかけて、
特定の患者として顕在化せず保健所が探知しづらい対象 (軽症者もしくは無症状陽性者)が、感染リンクを静かにつないでいた"ことを示唆する。なお、図の右上の「地域固有発生した国内クラスター群」は、3月クラスターに1~2塩基変異が加わったクラスターであり、3月クラスターに紐付けられる。

[crisp_bio注]

 韓国スンチュンヒャン大学病院のEunjung Leeらは 
[**]、無症状感染者のウイルス量が、症状が顕在している患者と同レベルであり、また、治療センターに収容した無症状感染者110名の中で21名が収容から13-20日のうちに発症した'pre-sympotomatic'であったことを報告した。
[**] 2020-08-07 新型コロナウイルス: 無症状感染者のウイルス量は症状が顕れている感染者と同レベル

 これを、今回の感染研の報告に重ね合わせると、日本国内での感染に拡がりの一因が、無症状感染者、特に、
'pre-sympotomatic'感染者、による'サイレントリンク'のように見えてくる。

[参考] 新型コロナウイルスに見られるアミノ酸変異に関するcrisp_bio記事