CRISPRシステムのI-AサブタイプとIII-Bサブタイプが存在しているSulfolobus islandicusにおけるスペーサ獲得、標的切断、および宿主ゲノム損傷修復機構について、華中農業大学のNan Pengが率いる研究グループが新たな知見をNucleic Acids Research誌と、Frontiers in Microbiology誌に発表した。

1. I-AサブタイプのCsa3aがスペーサ獲得と宿主ゲノムDNA損傷修復の双方に関与する
[出典] A CRISPR-associated factor Csa3a regulates DNA damage repair in Crenarchaeon Sulfolobus islandicus. Liu Z [..] Peng N. Nucleic Acids Res. 2020-08-24

 バクテリアとアーケアに見られるCRISPR-Casシステムによる獲得免疫応答は、クラス, タイプ、サブタイプに分類されているが、ウイルスなどからの侵入核酸からの新たなスペーサ獲得 (adaptation), CRISPR RNA (crRNA)の転写と成熟 (crRNA生合成), および, 外来核酸の分解 (interference)の3段階は共通し、また、保存性が高いCas1とCas2がadaptationの過程に関与することも共通している。

 CRISPR-Casシステムは、侵入核酸と共に、宿主ゲノムDNAも標的とし自己免疫応答を引き起こす可能性を帯び、これを抑制する機構の研究も進められてきたが、S. islandicusについては、その機構が不明であった。
csa3a 1
 S. islandicus
I-Aサブシステムについては、cas1cas2に加えて、csa1cas4がCsa3aによって転写活性化することで、adaptationが進行することが知られていた [S. islandicus I-A CRISPR遺伝子構造について、Fig. 1から引用した右図参照]。
csa3a 7
 研究グループは今回、Csa3aが、宿主ゲノムDNA損傷後に、Ced (Crenarchaeal system for exchange of DNA) とUps (UV-inducible pili of Sulfolobus)を活性化し、それぞれ、損傷した細胞の凝集と野生型DNAの導入を誘導することで、DNA損傷を修復することを見出した [Fig. 7引用右図参照]。

2. I-AサブタイプのCsa3bが、スペーサ獲得を抑制する一方で、III-Bサブタイプのcmr活性化を介してRNAを分解する
[出典] CRISPR-Associated Factor Csa3b Regulates CRISPR Adaptation and Cmr-Mediated RNA Interference in Sulfolobus islandicus. Ye Q [..] Peng B. Front Microbiol 2020-08-26

[crisp_bio注] サブタイプI-Aのadaptation関連遺伝子構造に加えて、サブタイプI-Aのinterference関連遺伝子構造およびサブタイプIII-Bの遺伝子構造をFigure 1から下左図に、Csa3bが関与する分子機序のモデル図をFigure 6から下右図に引用した。
csa3b 1 Csa3b-6
 I-AサブタイプのCsa3bは
侵入核酸が存在しない状態では、サブタイプI-Aのinterference遺伝子とadaptation遺伝子のプロモーターに結合し双方を抑制している。外来核酸が侵入すると、サブタイムIII-B cmr遺伝子のプロモーターに結合しその発現を活性化し、環状オリゴアデニル酸 (cOA)アナログ (5′-CAAAA-3′)の生合成が亢進し、cOAがCas3bのCARFドメインに結合することで、Cas3bのサブタイプI-Aのadaptation遺伝子のプロモーターへの結合が強まり、adaptation抑制に至る。Csa3aも、CARFドメインを帯びていることからcOAによる調節を受けることが示唆される。
 Csa3bはまた、cOAの結合によって、サブタイプIII-Bのcmr-α/cmr-β遺伝子の転写活性化を介して、RNA分解を誘導する。