[出典] Chromosome drives via CRISPR-Cas9 in yeast. Xu H [..] Yuan YJ. Nat Commun 2020-08-28.

 CRISPR-Cas9をベースにした遺伝子ドライブは、侵入種や病原媒介生物の駆除と共に、望ましい遺伝形質を帯びた生物の作出にも試みられている。天津大学の研究グループは今回、酵母 (Saccharomyces cerevisiae)において、CRISPR-Cas9技術をベースに染色体をドライブカセットとする"染色体ドライブ"を考案した。
Fig. 1
染色体全長の削除

 CRISPR-Cas9によりセントロメア近傍の特定の位置に単一のDSBを誘導することで染色体全長の削除が可能なことを、第3染色体をモデルとして、野生型酵母と合成酵母 (Annaluru N et al., Science 2014)から作出した2倍体酵母で実証した [Fig.1 aから引用した右図参照]。

染色体ドライブ

 酵母2倍体の染色体は、CRISPR-Cas9によらずとも、セントロメア配列のcisGAL1 プロモーターを挿入することで個別に欠損させることができる (Robert JD et al., Genes 2008)。こうして作出した酵母 2n-1株は、2n 株へと自発的にendoreduplicate (核内倍加) が進行する。
  • 核内倍加の酵母内在機構を利用し、合成X染色体 (以下、synX)を帯びた合成酵母株、X染色体にGFPを導入 (以下、chrX)した野生株を交配し作出した二倍体株において、CRISPR-Cas9によりsynX全長を削除し、chrXの倍加を実現した [Fig. 2 a引用左下図参照]。
    Fig. 2 a Fig. 2 b
  • 同様の手法で、多重遺伝子からなるヴィオラセイン(violacein)合成経路を導入したX染色体 (chrX)の倍加を実現した [Fig. 2 bから引用した右上図参照]。
  • このCRISPR-Cas9による染色体全長削除と自発的核内倍加をベースとする染色体ドライブにより、X染色体に加えて、XII染色体とXIV染色体を対象として、2種類の株の間での複雑な遺伝子形質の伝播と非メンデル性遺伝を実現した [原論文Fig. 3参照]。
 [酵母遺伝子ドライブ関連crisp_bio記事]
  • CRISPRメモ_2019/09/18 - 1 [第5項] 出芽酵母をモデルとするCRISPR遺伝子ドライブの設計と解析
  • CRISPRメモ_2018/09/15 [第1項] CRISPR/Cas9による酵母ゲノムリシャフリング
  • CRISPRメモ_2018/08/16 [第2項] 出芽酵母の多重遺伝子座CRISPR遺伝子ドライブシステムを開発
  • CRISPRメモ_2018/03/09 [第1項] SpCas9活性と遺伝子ドライブを抗-CRISPRタンパク質 (AcrIIA2; AcrIIA4)によって調節する:酵母での実証
  • crisp_bio 2017-05-04 透明性と安全性に十分配慮したCRISPR-Cas9による酵母遺伝子ドライブ実験
  [異なる手法による染色体削除 - マウスとヒトiPSC]